食費はただ、家賃も0円!お金なしで生きるなんてホントは簡単

ハイデマリー・シュヴェルマー著、原田千絵訳、角川書店

故人ですが、ドイツでお金を使わない生活を実践されたハイデマリー・シュヴェルマーさんの本です。ドキュメンタリー映画も製作されています。2003年の日本語の本は絶版になっているので、図書館などで探してお読み下さい。稀少本なので、古本屋だと定価より高く取引されているようです。

ドイツの小中学校教師、心理療法士の女性が「この地球をよりよくしたいという誓い」を実行するために、ギブアンドテイクの運動を始め、それを発展させてお金無しの生活を実践していく物語です。

お金なしのサバイバルを実行に移す人物は世界に何人も居られますが、それぞれ個性的な動機や方法論があって面白いですね。

・1942年生まれで第二次大戦終戦間際の疎開逃亡生活を原体験に持ち、「この地球をよりよくしたいという誓い」が基本理念として確立された。

・高校で自由な女子寮の寄宿舎生活を経験した。「人間というものは、もしかするとあまりコントロールされない方が、よりよく開花するものなのではないだろうか?」これが彼女の生涯のテーマのひとつであった。

・教師になり体罰を拒否する理想教育を実践しようとしたが挫折し、休職して南米への旅に出た。そこで知り合ったチリのインディオの血を引く画家と恋に落ちて結婚して、2人の子供を出産した。夫の絵の収入では生活できなかったので、家族でドイツに移住したが、夫はドイツ語を学ぼうとせず、哲学者オルテガに心酔して夫婦の会話が破綻し、離婚した。彼女は落ち込んだがやがて元気を取り戻し、世界のより良い変化のために働きかけようと決意した。

・息子の心的障害をきっかけとして親子でセラピーを受けるようになり、心理療法士の女性に出会い、「あなたは、人がお互いに愛を持って共に生きていけるような、より良い世界に力を貸すためにこの世に生まれてきたのです」と言われ、自らの使命に開眼した。

・彼女は、ラジオでカナダの村で行われているという「交換の環」の話を聞いた。村の唯一の工場が倒産したことをきっかけとしてギブアンドテイクの仕組みが回り始めたという。彼女はこれをドイツでも実践しようと思い立ち、ギブアンドテイクセンターと名付け、協会設立を呼びかけた。

・彼女が子供の頃から親しんできたグリム童話「星の銀貨」で綴られたギブアンドテイクの精神が協会の活動にも生かされた。協会の活動紙は「星の銀貨」と名付けられた。

・彼女の理想を実現するために、本当の豊かさ、本当の自由を追求するために、ついにお金を持たない生活の実験を始めることを決意した。健康保険も解約し、困ったときは女医の友人に相談することにした。旅行などで家を空ける人のために、留守番の仕事を引き受けることで、住居も無しで生活できることに気づいたのだ。

・留守番を依頼する人は、留守番の対価として、冷蔵庫を食材で満たして出掛けていくのが通例だった。留守番の仕事が途絶えた時のために緊急の住居を決めていたが、その時には、自然食パン屋で造りすぎて余ったパンを配る仕事を頼まれた。期限切れ食材の有効活用をスーパーに提案したが拒否された。しかし、自然食品店に提案したら即座に賛同が得られた。協会では、店の畑の草取りを手伝ったり、協会活動を通じて店舗の宣伝を手伝ったりしてお返しをしている。

・靴や衣類もサイズが合わないものや使わなくなったものを、リサイクルで受け取ることができたが、自分自身の好みにあわせたスタイルの重要性にも気付かされた。

・インターネットは、無料メールアドレスとインターネットカフェを利用した。インターネットを使わせて貰う代わりに、食器洗いを手伝った。

・ドイツ国鉄が発行しているグループチケットの同乗を見ず知らずの人に話し掛けて提案することや、講演会の誘いに応じることで、お金なしで旅行することもできた。旅行先でも留守番を引き受けた。

・実験を始めて、衣食住の獲得で様々なミラクルを体験し、様々な人との感動的な出会いが得られた。

・第一歩を踏み出したい人へのアドバイス、「自分を知るためのノートをつくって下さい」、「計画や準備をせず、思いつくままに過ごす砂漠の日を実行してみて下さい」、「何をしている時が一番楽しいか考えてみて下さい。そして分かったら、それを思いっきり楽しんで下さい」、「不必要なものと離れて下さい」、「ギブアンドテイクの行動を起こして下さい」、「あなたの夢を諦めないで下さい」、「笑顔を忘れないことが最高のおまじないです」。

なんとも爽快感のある読後感です。シュヴェルマーさんは波瀾万丈な人生でしたが、最後には、ひたすら自由で、リラックスした人生を獲得できたのです。4年間の無銭実験のあと、知人から財布をプレゼントされ、ほんの少しお金を使うこともあるようです。自由を手に入れるためには、少し工夫をすることが必要なようです。ほんの少しの第一歩を踏み出す勇気が必要なようです。

最後に、印象に残ったシュヴェルマーさんの言葉を引用します。

『私の父は、娘である私が職を変え勉強をし直すたびに、いまだに自分でお金を稼げない、と嘆いたことがあった。彼の言ったことは正しくない。皆がその職業を、好き嫌いにかかわらず、定年になるまで続けるという時代は、ゆっくりではあるが確実に終わりに近づいている。』

『私たちの価値観はこの何百年かの短い時間のうちにできたものだ。これらは、時代の流れにあわせたもので、本能や真理とはまた別のものである。真理や独自の価値観を追求することに生涯をかけた人たちは、時に容赦なく迫害された。現代でも、新しいことを始めた人や、人と違った考え方をする人は、なかなか世間が受け入れてくれないことがある。』


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