捨てないパン屋

広島の人気カンパーニュ屋さんの自叙伝です。祖父の代からの町のパン屋で時代の波に翻弄されながら、世界を旅して、自分らしいパン屋の形を模索して実現した話です。

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しかしこの本を読んでいて思いました。この本は「パンの本じゃない」ということです。この本は、「生き方の本」なのです。どのように働いて、どのように生きていくかを考える本なのです。「働き方改革」、「生き方改革」の本なのです。

この本で語られる刺激的な言葉を引用します。

第3章、旅するパン屋、より

「人生の分かれ道に直面したとき、僕はつねに自分がドキドキするほうを選ぶと決めて、実際にそうしてきました。」

「僕の場合は恵まれていて、羊が命をかけて、パンづくりを鍛えてくれました。」

「ヨーロッパでは、なぜ年に40日以上ものヴァカンスがとれて、日本と同じか、それよりさらに、国が豊かなのか?なぜ、生活も、いいものを食べて、ゆったりしているのか?」

「フランス市内を走るトラムという路面電車も、乗り場で切符をあらかじめ買っておけば、どの車両のどの扉から乗ってどこで降りても自由です。乗り降りでお金を払うために車内が渋滞することもありません。チェックする人や機械はありません。それならキセル乗車し放題じゃないか、と思うかもしれませんが、それでいいじゃないですか。子供ではないのですから。」

「ヨーロッパの人たちは、ろくすっぽ働いていない。それでもみんな長期休暇をとったり、土日はしっかり休んだり、バカンスシーズンにはどんなへんぴな田舎町でも長期滞在者で賑わっていたりします。日本は何も勝っていないのです。明治維新の頃に、世界をはじめて見た日本人のような気がしました。」

第4章、競わないパン屋、より

「中川さんの畑を見たあとに、偶然引き寄せられるように、洞爺湖で、今度は野菜の自然農の畑を見学する機会に恵まれました。畑じゅう草がボウボウ生えているのに、栽培している野菜は虫にも食われず、生き生きしています。バジルも雑草に埋もれながら、ピンピンしていました。」

「ネットで、武具の兜の店が大繁盛しているとかいう時代です。いかにニッチな層のお客さんとしっかり深く付き合っていくかを考えるべき時代です。」

第5章、働かないパン屋、より

「僕の大好きなフランスのパン屋ポワラーヌは、何百年と変わらぬ薪でパンを焼く製法で、世界で一番と言われるパン屋になりました。結局、美味しかったのです。先代の店主はそれを「レトロ・イノベーション」と言いました。古いやり方で革新するという意味です。僕はこの考え方が好きなのです。」

「儲かっているから行くのではなく、赤字でも行かなければいけないのです。むしろ、赤字ならなおさら行くべきです。赤字ということは、今のままでは評価されていないということ。お客さまに必要とされていない。刺激も成長もないから誰も来ないのです。同じことをやっていても評価されないでしょう。だから成長するための材料を探しに旅に出ないといけないのです。」

「薪窯でなければ、今のうちの店はもうなかったかもしれません。薪窯であれば、それだけでチヤホヤされます。菓子パンがなくても許してもらえるのは薪窯だからかもしれません。」

「絶対パンだけで食べていくんだ!というわけでもないんですけどね、というスタンスのパン屋も増えてきているように感じます。元研修生の青森の斎藤さんは、シードルもつくるパン屋を目指すという噂です。僕もこうやって本を書かせてもらっているし、毎週木曜日はラジオにも出ています(RCCラジオ「おひるーな」12時~14時55分聴いて下さい)。世の中は確実に自由になってきております。尾崎豊の時代よりも自由です。」

「僕たちは帰国後、目の前のお客さまに全力投球!を掲げることにしました。店でレジに列ができたときも、わき目もふらず目の前のお客さんに全力投球です。」

あとがき、より

「だいたいの場合、みなさんが感じていることが正解なのです。だから自信をもって行動してみてほしいのです。」

「商売はもっと単純になって、まっすぐにお客や社会のことを考えて、人の役に立ち「ありがとう」とたくさん言われた会社がいい会社になってきていると思います。「ありがとう」ポイントをどれだけ集めるかが商売になってきています。」

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どうでしょう、パン屋を通して、生き方、働き方を考えさせられる本ですよね。「株式会社」「正社員」「週40時間労働」というような20世紀の日本的な価値観が日本人自身を縛り付けちゃってるかもしれませんよ、という話なんですね。もっと自由になろうぜ!という励ましの本なのです。

「競争しないパン屋」の章を読んでいて、岩崎夏海さんの「まずいラーメン屋はどこに消えた」という本を思い出しました。その本に書いてあった「ブルーオーシャン戦略」を思い出したのです。フランスで薪窯パンの美味しさに感動して自分も日本でそれをやってみたい、という自分の気持ちに素直に、自分の進みたい道を行って、手抜きして、楽をして、結果として、商売が維持出来るんですよ、という話なんですね。

お客さんに喜んでもらいたいから、国産の美味しい小麦を探していたら、どんどん小麦農家のネットワークも広がっていったというのです。パンを捨てたくないから、パンを引き取ってもらえる店のネットワークも広がっていったというのです。「おいしいパンを焼きたい」「つくったパンを捨てたくない」というところから逆算して、パン屋の形が決まっていったという感じです。必要は発明の母と言いますが、求めていれば自ずと道は開かれるということでしょうか。この仕事のやり方、全ての仕事に応用できるんじゃないでしょうか。

この本では、「ヨーロッパと日本では幸せの定義が異なる」ということも書いてありました。日本みたいな新築タワーマンションよりも、古いボロボロの家に皆喜んで住んでいるということです。それでも、フランスでは時間がゆっくり流れ、随分幸せに見えるということです。「働き方改革」「生き方改革」は、「幸せ改革」かもしれません。「幸せの定義を見直しましょう」ということなんですね。

https://ja.wikipedia.org/wiki/国民総幸福量

https://ja.wikipedia.org/wiki/世界幸福度報告

※参考書籍

※参考記事

ブルーオーシャン戦略


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