2050年の経済覇権

嶋中雄二、三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所、2050年の経済覇権

軍事力、科学技術力、人口動態、国際収支、相対価格(工業製品価格÷1次産品価格)、GDPから、2050年の覇権国を読み解く狙いの本です。別に著者の回し者というわけではありませんが、2千円で2050年の経済が分かるなら安い物ですね!管理人の読解を示しますので各自読んでみて下さい。

第1章、コンドラチェフサイクルと経済覇権

15世紀に始まる欧州の大航海時代は、1494年トリデシリャス条約1529年サラゴサ条約で、覇権国ポルトガルと競争国スペインによる世界領土分割体制を構築した。2007年、中国の軍事当局者が米国太平洋軍司令官に太平洋の分割を提案したのも同じである。ウォーラーステインの世界システム論によると、50年程度のコンドラチェフサイクルを2個セットにした100年強の覇権サイクルというものが観念し得る。25年程度で、「覇権への躍進」、「覇権の獲得」、「覇権の成熟」、「覇権の衰退」という段階を経るという。ロシアの経済学者NDコンドラチェフは、50年程度の景気循環が、社会インフラ投資の波を起源として発生すると主張した。他に、戦争や革命の波動、イノベーションの波動などを根拠とするものがある。

第2章、コンドラチェフサイクルを計測する

物価指数や固定資本形成率のグラフをフーリエ変換して周波数分析を行うと、40から70年の長期波動を抽出することができる。それによると、日本の長期波動の平均周期は56年で、次の山は2028年に頂点に達する。米国の平均周期は52年、次の山頂は2034年である。英国は56年周期の波動が2028年まで上昇し、ユーロ圏は48年周期の波動が2034年まで下降する。中国は72年周期の波動が、2047年まで下降する。インドは54年周期の波動が、2032年で底入れすると見られる。世界全体の長期波動が50年で、2031年に向けて上昇すると見込まれる。

第3章、軍事力科学技術力からみた覇権

世界における海軍力の集中度を計測することにより覇権国の興亡を把握することができる。GDPと国防費のGDP比率を推計して将来の国防費を予測すると2045年に中国の国防費が米国を上回る可能性がある。インドの国防費も、2040年代に中国を追い抜く可能性がある。覇権国の移動に伴い、イノベーション中心地も移動する。科学技術や物理学の発見は覇権と密接に結びついている。各分野のトップ10パーセント研究論文シェアを計測すると、中国が米国を猛烈に追い上げており、化学、材料、工学、数学計算機の4分野では既に中国が米国を上回っている。人口動態を考慮すると、2025年にインドの大学進学者数が中国を上回る可能性がある。

第4章、人口動態からみた経済覇権

過去の推移をみると、人口増加率は経済成長の中長期的な循環変動と密接に関わっている。1929年大恐慌は1920年代の西欧米国人口成長率の低下による投資需要の減少が一因と考えられる。国連の人口統計および推計によると、2030年前後にインドの人口が中国を追い抜き、都市人口比率の上昇率は、日本でも米国でもユーロ圏でも中国でも低下するが、インドでは2050年頃でも維持される見込みである。人口動態を見ると、日本が経済覇権に連なるチャンスは、「移民受け入れ」と「共同覇権」を試みることである。

第5章、国際収支からみた経済覇権

キンドルバーガーなどが提唱している国際収支の発展段階説によれば、貿易収支赤字で対外純債務が膨らむ「未成熟債務国」、貿易黒字化して富の蓄積が進む「成年債務国」、累積債務はあるが国際収支が黒字化した「成熟債務国」、債権国となったばかりの「未成熟債権国」、貿易赤字化し経常収支も赤字となる「成熟債権国」の段階を経るという。米国の経常収支は赤字となっており、対外純債務国に至っているが、「成熟債権国」が継続していると見ることができる。一方、中国の経常収支は赤字化する見通しとなっているが「未成熟債権国」の段階にあると見られる。インドは経常収支赤字の「未成熟債務国」であるが、2020年代にも経常収支黒字化することが見込まれている。ユーロ圏は成熟債務国の段階であり、日本は成年債権国に移行中である。

第6章、相対価格で世界経済を捉える

ロストウは景気循環の分析に、工業製品価格を原材料価格で割り算した相対価格や、輸出物価を輸入物価で割り算した交易条件を用いた。相対価格と交易条件には30年程度のサイクルが認められる。相対価格でみると、英国は2041年、米国は2038年、日本は2044年、中国は2042年、インドは2046年まで上昇局面にあると予想される。

第7章、GDPからみた経済覇権

千年以上の単位で、GDPシェアや一人当たりGDPを観察すると経済覇権の変遷と連動していることが分かる。2007年にゴールドマンサックスは中国の経済規模が2027年に米国を上回ると予測した。他方、中国政府発表のGDPは過大であり、2050年でも逆転は起きないとする見解もある。著者らの予測では、2050年の名目GDPは、インド、中国、米国、ユーロ圏、日本、英国の順番となる。


なかなか興味深い考察です。この本の結論をひとことで言うと「2050年にはインドが来ますよ!」ということなんですね。あらゆる側面から見てインドの成長余地と成長見込みは大きいですよと言っているわけです。

第3章の科学技術力が覇権を左右するという分析はとても考えさせられました。日本の研究力の低下、科学技術論文数の低下が嘆かれていますが、これは日本の覇権競争力も低下しちゃっているということなのですね。

※科学技術振興機構、151研究領域におけるTOP10%論文数の国際シェア順位の推移(7か国比較)

https://www.jst.go.jp/osirase/2019/pdf/Top10papers_20190513.pdf

本には書いてませんでしたが、金メダルの数など、スポーツの活躍も結構大事だと思いました。覇権国はスポーツ選手も活躍するのですね。卵が先か鶏が先かという話になりますが、スポーツ振興もバカにできないなと思いました。

1494年トリデシリャス条約、1529年サラゴサ条約のような覇権国による境界設定をデマルカシオンといいます。覇権国というのは常に世界全体に影響力を及ぼそうとする性質を持つのです。

あと、もうひとつ、やっぱり宗教活動も重要なんですね。ソビエト連邦共産党は「宗教はアヘンである」なんて言って共産主義革命を推進して世界初の人工衛星を打ち上げていたりしましたが、やはり、覇権確立のためには、思想といいますか、理念といいますか、宗教的なバックボーンが必要なんですね。日本でも現職総理大臣が「日本は神の国である」なんて発言して批判されたことがありますが、そういうものが結構大事なんですね。中国が一帯一路なんてぶち上げてユーラシア大陸全体の振興を掲げ始めたのも理念における覇権を目指した行為と言えそうです。戦前日本の八紘一宇なんていうのもちょっと似てますね。アメリカもつい最近までTPPを提唱していたのですが、あの人が当選してからちょっと下火になっていますね。

宗教が大事なら、意外にも、文学も大事かもしれません。ノーベル文学賞なんてものも、覇権国に絡んで出てくるものかもしれません。ノーベル平和賞だって大事ですね。なんでも良いからノーベル賞を取りなさいってことなんですね。

宗教、思想、文学、スポーツ、科学、軍事力、人口、国際収支、そしてもちろん経済力GDPと、覇権確立・覇権追跡のために総力戦が必要となるわけです。そういうことを意識して、あらゆる分野で国の振興策を考えられるかどうかが、21世紀のリーダーシップに求められる資質なのでしょう。

※参考記事

ルイスの転換点

太陽活動と景気

第3の超景気


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