シンギュラリティを乗り越えるためには「知の冒険」が必要です。分からないことに挑戦する姿勢が必要なのです。我々一般人にとって分からない事、その代表が量子力学と素粒子物理学です。1960年代、米国シカゴで未踏の世界に踏み出していた稀有な日本人が居ました。その偉大な先輩の生き様は当然学ぶべきでしょう。難解な素粒子論も「物語調」なら読み進めることも可能です。
この本を読んで、南部陽一郎さんの冒険がどんなものだったのか、雰囲気の一端を覗き見ることが出来た気がしました。そして、20世紀後半の素粒子物理学の発展の種のほとんどを南部陽一郎が撒いていたことに気付かされました。「自発的対称性のやぶれ」「量子色力学」「ひも理論」これを最初に言い出したのが全て南部陽一郎さんなのですね。
ひとつだけでもノーベル賞なのに、3つとも南部さんの業績です。しかも、これらの種から何十ものノーベル賞が生まれています。20世紀後半の素粒子物理学は南部無しでは進まなかったことを思い知らされました。
それは、ちょっとアインシュタインの特殊一般相対論ともちょっと違うレベルの偉大な貢献だと思いました。アインシュタインの研究には、マイケルソン=モーリーの実験や、ローレンツ短縮の提唱など先行する研究があり、アインシュタインが言わなくても数年以内に他の人が時空の歪みを言い出す可能性は十分にあったように思われますが、南部の「質量を産み出す物語」は本当に信じられないような大跳躍だったと思いました。人類が質量創生のメカニズムに到達するのに数十年遅れていても不思議は無いなと思いました。
南部陽一郎さんの研究がシガゴ大学の自由闊達な議論の中から生まれたことも興味深く思いました。関係ないと思われるものを結びつける接点を考え抜く手法でした。今風に言えば「オープンイノベーション」というものです。南部陽一郎さんは、先輩も後輩も国籍も関係なく、分野も関係なく、研究室でもホームパーティーでも楽しく議論し続けたそうです。また、一人で寝ている時にも、真剣に深い洞察を行っていたと言います。つまり、多人数の議論とひとりでの黙考、これが両立したときに、未来への扉が拓けるのかも知れません。これは別に最先端物理学の研究だけに当てはまる話ではないと思います。自分のキャリアや会社の未来や、投資先や、進学先や進路など、自分自身の未来を決める時にも役立つ思考法でしょう。
※参考書籍
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