「20世紀をつくった経済学、シュンペーター、ハイエク、ケインズ」、根井雅弘、ちくまプリマー新書
京大経済学部教授根井先生が、20世紀経済学者が何を考えていたか紹介してくれます。チェコの天才経済学者ヨーゼフ・アロイス・シュンペーターが、人類の経済活動のダイナミズムから「新結合=イノベーション」を発見して我々に提示してくれました。「経済発展の理論」において、イノベーションの特性を5つ述べています。
(1)新しい財貨の生産
(2)新しい生産方法の導入
(3)新しい販路の開拓
(4)原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
(5)新しい組織の実現(例えばトラストの形成や独占の打破)。
さらに、シュンペーターの不況観が非常に興味深かったです。シュンペーターの経済学では、「不況」は、イノベーションによって創り出された新事態に対する経済体系の「適応過程」と捉えられるんだそうです!なんと、これは驚きですね。確かに、蒸気機関(外燃機関)も、内燃機関も、コンピューターも、インターネットも、これはイノベーションでしたね。社会全体に影響を与えているわけです。
ところで、ここで思い出されるのは、ミスターイノベーション=スティーブジョブズという人物です。彼は一体、人生の中で、何回イノベーションを巻き起こしたことでしょう!アップル2(パーソナルコンピューター)、マッキントッシュ(マウスGUI)、ネクストステップ(オブジェクト指向OS)、ピクサー(CG革命)、iPod(携帯音楽ライブラリ)、iPhone(スマホ)、iPad(タブレット)、本当に驚くばかりです。
アマンダジラー、星野真里訳、「世界を変えた!スティーブ・ジョブズ」
もしかすると、21世紀うまれの子供達は「スティーブジョブズ」という人物を知らないのかもしれません。それは非常に勿体ないことだと思います。本でも伝記映画でもマンガでも沢山出ていますので、是非彼の人生を学んで欲しいと思います。イノベーションの性質を少し理解することに役立つはずです。そして、その知識は、これから社会がどのように変わっていくのか、理解するための助けになるはずです。パソコンが無かった時代にパソコンを造った、マウスが無かったテキスト時代にマウス式グラフィカルコンピューターを造った、CGアニメが無かった時代にトイ・ストーリーを造った、iTunesStoreでCDを壊滅させた、ジョブズのイノベーションを正当に評価するためには今現在のジョブズの成果物を観察してもダメですね。「今現在存在しない新しいモノが我々に与える驚き」を考えなければならないと思います。例えば「量子コンピューターを脳に組み込んで脳とシンクロさせる」とかそういう発想です。
湯之上氏は日立からエルピーダメモリさらに国家主導半導体プロジェクトへの出向という、日本半導体の衰退を内側から体験した経験から、日本半導体の衰退を鋭く分析しています。ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱している「イノベーションのジレンマ」という概念を紹介しています。これは、世界トップ企業が、既存顧客の要求に忠実に耳を傾けるあまり、性能や品質は劣るが「安い、小さい、使いやすい」などの特徴を持った破壊的技術に駆逐される現象だということです。コンピューター業界のパラダイムシフトに対応できなかったのが主な原因ということです。大型コンピューターからミニコン、さらにPC、ノートPC、タブレットスマホへと、コンピューターの主戦場は変化しているのに、それに対応できなかったということです。PCからスマホへのパラダイムシフトでは、あのインテルすら「イノベーションのジレンマ」に陥ったと指摘しています。湯之上氏は、日本企業が新しいイノベーションを起こすために、経営者も技術者も海外に駐在して、現地のビジネスチャンスをマーケティングせよと提唱されています。
この本には、半導体露光装置の分野でニコンが凋落し、オランダのASMLがトップに立った経緯も紹介されています。日本の半導体メーカーが微細性と精度を要求したのに対し、韓国台湾のメーカーはスループット(時間あたり処理枚数)と稼働率つまり生産性を重視したというのです。ASMLは、台湾TSMCや韓国サムスンの要求に合わせて装置を改良し、これら半導体メーカーと「共進化」することができたと論じています。
イノベーションのジレンマについて理解することは、これから社会に起きる出来事を乗り切るために非常に有効な事だと思います。つまり、これからイノベーションのジレンマに陥り衰退していく大企業の行く末を事前に予想することができるということです。極端に言えば、現時点の大企業はすべてジレンマに陥る危険があるということです。
「大きな産業が日本から消えようとしている」と、日本の電子産業の衰退を分析しています。かつて世界一の規模を誇った、半導体産業も、テレビ産業も、日本から消え去ろうとしているのです。電電公社の時代に交換機などの通信機器を納めてきたNEC、日立、富士通、沖電気などの「旧電電ファミリー」が、護送船団方式で守られて技術開発などを行い、半導体製造で黄金期を形成したが、その成功体験に固執してしまったために、過剰品質のDRAMを製造し続け、半導体産業における、半導体設計と半導体製造の分業という世界的な潮流に乗り遅れてしまったと分析しています。「集積回路における設計と製造の関係は、雑誌の編集と印刷の関係に、よく似ている」と分析されています。また、イノベーションによる経済発展は、技術革新では無く、「新結合」すなわち「われわれの利用しうるいろいろな物や力の結合の変更」によってもたらされると、経済学者ヨゼフ・シュムペーターが提唱していることを紹介しています。西村氏によれば、インターネットを活用したファブレス(工場を持たない半導体設計)企業とファウンドリ(半導体製造サービス)企業の分業も、イノベーションそのものであるということです。西村氏は、若い企業家によるイノベーションに期待したいと書いています。
「日本式モノづくりの敗戦」、野口悠紀雄、東洋経済新報社
先進国における製造業のビジネスモデルが変化したのに、日本の大企業がそれに追従できなかったことが日本の製造業の大敗北に導いたと分析しています。台湾のPCメーカーエイサー創始者スタン・シーが提唱した「スマイルカーブ」が、新しいビジネスモデルを現しています。「製品の開発段階は、高収益。生産・組立という製造工程は、低収益。販売・アフターサービスは、高収益」ということです。工場(ファブ)を持たないファブレス企業が、新しいライフスタイルを提案することによって社会を変えていく。それがiPhoneを産んだアップルの大躍進の姿です。野口氏は、日本の製造業が復活するために、政府官僚主導の護送船団方式を廃し、外部から経営者を呼んで、外国資本も受け容れ、外国人も受け容れ、日本企業の改革を断行せねばならないと主張しています。製造業といっても、従来の垂直統合型ではなく、水平分業型(ファブレス)で、今までに無い、新しい産業を創出する必要があるということです。
シャープの経営危機を契機として日本の科学復興に向けた提言を綴った本です。アメリカでは1982年からSBIR(Small Business Innovation Reserch)プログラムが技術ベンチャーの育成に大きな役割を果たしたと紹介しています。日本でも「日本版SBIR」制度が導入されましたが、プログラムの根本思想を理解していなかったために失敗していると指摘しています。イノベーションの性質を正しく理解するために、シュンペーター経済学、クリステンセン経営学(イノベーションのジレンマ)を正しく理解し、かつ、プロデュースする専門分野について博士号取得以上の知見が必要となります。米国のSBIRでは、連邦政府各部署の外部委託研究費の一定割合をSBIRプログラムによって支出することが義務づけられていますが、日本ではそのような義務づけは無く、また、交付金の支出先も新規創業ではなく、既存の中小企業に対する支出になってしまっているとのことです。これでは政府の政策担当者のアリバイ作り(一応ちゃんと仕事してますよ!)みたいな制度になってしまいますね。個人的な見解ですが、司馬遼太郞的な歴史観、江戸から明治に掛けての「日本の沈没を防ぐにはどうしたらよいか!」という危機感が、日本国民全体から消失してしまっていることが原因のような気がします。まさに歴史認識問題です。世界史における日本の位置付け、世界における日本の役割を、反省する必要があると思います。