2025年3月17日、ハラリ講演会

でっかい安田講堂の遠くの席から豆粒のようなハラリさんを見ることができて感激でした。入り口ではパレスチナ侵攻反対の学生が「イスラエル政府の虐殺に反対してないハラリに講演させるとはけしからん!」という抗議運動をしていました。確かに、ホロコーストの被害者であるユダヤ人が、ガザ地区で無差別爆撃して子供を殺しているのは矛盾以外の何物でもありません。

この講演会は、新著「ネクサス情報の人類史」の宣伝も兼ねて河出書房新社協賛で企画されているものですが、まあ、だいたいしゃべる内容は「ネクサス」を読めば良いのですけど、それでも、生の音声で質疑応答の中からハラリさんがしゃべった内容は印象深いものがありましたので、ご紹介したいと思います。無料日本語レシーバーも借りたのですが、分かりやすい英語をゆっくりお話しされたので、ほとんど使わずに理解できました。スマホにメモ書きしたものですから、誤記などあったらご容赦下さい、管理人にはそのように聞こえたということで。箇条書きで、ハラリさんのアドバイスをご紹介致します。

・第二次大戦末期に原爆を開発したマンハッタン計画の主導者はオッペンハイマー博士で、そのほかにも当時最高の物理学者が何人も協力して原子力爆弾は作られたが、物理学者の知識だけでは原子力爆弾は作れなかった。ウランを運んだり、原爆を組み立てたり、研究所の食事を作る人や、運転手、何万人もの協力があってつくることができた。それは、原爆を作るという物語に従って多数の人間が協力することによって進行されたオペレーションだった。だから、最も権力を持つものは「物語を作るもの」である。

・物語を作るものは、古来人間だったが、21世紀においては、それは人間である必要は無い。AIにその権力が付与されつつある。

・デジタルトランスフォーメーションの時代になって、編集者の役割が大きくなっている。朝刊の一面記事を何にするのか、編集者が決めており、それは何百万人もの人々の議論に影響している。

・いま一番重要な編集者はAIアルゴリズムである。これは民主主義の危機である。

・AIが物語を作り始めたら、その結果がどうなるかは誰にも分からない。

・いままで最も成功した物語は貨幣である。

・いまのところ、AIの裏には人間が居ると見ることも可能だ。

・法律、官僚制について無限の力を持つAIができたとしても、それをアフリカのサバンナのど真ん中に放り込んでも何も権力を持たない。

・ロヒンギャ大虐殺はfacebookのデマ情報(プロパガンダ)によって促進されたとみることができる。facebookはサイトの滞在時間を長くしようとするアルゴリズムを開発し、これが2016年のロヒンギャ大虐殺に帰結した。facebookの担当者に悪意があったわけではないが、そのような結果をもたらしている。

・贋金と偽情報は同じくらい危険だ。人を偽造するテクノロジーが発生している。botが人間のふりをしてネット上で活動し始めている。それを本物の人間と区別することは不可能になりつつある。

・読み書きを教える、馬の乗り方、稲の育て方、こういった生きていくために必要なスキルに相当するものが、10年後に何になっているのか、分かっていない。人類の歴史上初めて10年後がどうなるかわからない時代に突入している。変化の速度がどんどん加速している。

・数学の言葉を学ぶことが大事である。生涯学習し続けることが必要だ。

・金融も宗教もAIのテキストが人間を超えつつある。テキストの預言者ラビがかつて権力を持っていたが、AIが凌駕しつつある。我々は言葉の主人ではなくなりつつあるのだ。

・言語ではない部分を見ていかなければならない。意識や感情が大事である。身体と感覚、これがAIの持っていないもの(聖域)である。

・chatGPTが便利な回答をくれるとしても、考えることをやめないで下さい。歴史を学ぶことは、過去を学ぶことではなく、変化を学ぶことです。

・AI教師は生徒に合わせて個別対応することができる。だが、欠点もある。最も重要な教育は、休憩時間に行われるものだから、それはAIの苦手な部分かもしれない。

・世界に対する信頼を失うと、フェイクニュースに走ることになってしまう。イイね狙いの投稿をすることで、個性が失われている。

・情報ダイエットが必要である。我々は食べ物を気にするが、取得する情報には無頓着なことがほとんどだ。情報について意識する必要がある。心に注入する情報に注意を向ける必要がある。

・外交や予算をAIに任せることは危険である。そこには倫理が必要だからである。

・暗号通貨は中央銀行を信用してないから作られた。それは銀行を信用せずに、アルゴリズムを信じているわけである。

・歴史感覚をうしなうことが危険である。

・AIはエイリアンのようなものだ。AI開発者は、安全な倫理的なものを作ろうとはしていない。ただ性能を高めようとしているだけだ。


感想です。

「我々は食べ物以上に、取得する情報を取捨選択する必要がある」

これが一番印象に残った言葉です。

例えばテレビを見るならどのチャンネルを見るのか、新聞ならどこの新聞か、あるいはマスメディアを見ずに、youtubeをみるのか、youtubeのどこのチャンネルか、どこのSNSを見るのか、どこのブログを見るのか、どこのサイトを見るのか。

そしてもちろん、どの本を読むのか!

あるいは本を読まずに、洞窟にこもって考え続けるのか。

朝起きて漫然とテレビをつけてニュースを見る行動は危険かもしれない、ということです。

「心眼で見よ!」という言葉がありますが、まさにそれですね。いったん目を閉じろということでしょう。

物語は、ナラティブと言いますね。今の日本のナラティブは何なのか。世界のナラティブはどうなっているのか。ナラティブに意識を寄せる必要があるでしょう。

蛇足。パネリストの先生がグーグルのAI gemini のことを「じぇみない」と発音してて驚きました。日本ではみんな「じぇみに」と発音してますが、現地の人は「じぇみない」なのかー。そうなんだー、と新鮮な驚きでした。


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ:

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です