ムヒカ夫妻の教え

質素であることは自由であること、有川真由美、幻冬舎

前ウルグアイ大統領ホセ・ムヒカさんは、大統領公邸に住むことを拒否して質素な農園暮らしを続け、ボロボロのフォルクスワーゲンに乗り続け、世界で最も貧しい大統領と言われましたが、奥さんであるルシア・トポランスキーさんは、最も貧しいファースト・レディーであり、夫婦で質素な生活を実践しておりました。ホセ・ムヒカさんとルシアさんは、ウルグアイの民主化ゲリラ「トゥパマロス」のメンバーで恋におちて活動を共にしていましたが逮捕投獄され、1972年から1985年まで13年間も政治犯として収監されていました。釈放されたとき、ホセは50才、ルシアは40才になっていました。そのため、二人の間に子供は恵まれなかったのです。

ムヒカさんは2010年から2015年までウルグアイの大統領を務めましたが1期ですっぱり退任しています。ルシアさんは、2000年から下院議員を務め、2005年から上院議員、2017年から2020年までは上院議長と副大統領を務めました。ウルグアイの街角にはいたるところにLUCIA,PEPE(ムヒカさんの愛称) という夫妻を応援する看板が掲げられているそうです。国民から愛された夫妻でした。

ホセ・ムヒカさんといえば、2012年6月20日のリオデジャネイロで行われた国連の持続可能な開発会議Rio+20での演説が有名です。

ホセ・ムヒカ氏 リオ+20演説 日本語完全翻訳

世界各地から集まった当局者の皆さん、そして参加するすべての機関の皆さん、ありがとうございます。

このサミットでは「(問題解決についてみなさんで一緒に)考えて下さい」と招かれました。どうか、声に出して考えることをお許しください。

午後の間ずっと、私たちは持続可能な開発や、膨大な数の人々を貧困から救い出すことについて話してきました。

しかし、私たちの頭の中に渦巻いているものは何でしょうか?

豊かな社会の開発と消費のモデルでしょうか?

私は自問します。もしインドが、ドイツと同じように一家に一台の車を持つようになったら、この惑星はどうなるでしょうか?

残る酸素はどれくらいでしょうか?

さらに明確に言えば、現在の世界には、70億、80億の人々全員が最も裕福な社会と同じレベルの消費と浪費を享受するための物質的資源があるのでしょうか?

このようなグローバル化された消費レベルは、この地球にとって良いことでしょうか?

それとも、いつの日か私たちは別の議論をしなければならないのでしょうか?

これこそが現代の開発の大危機です。環境の危機、政治の危機、そして人間の危機です。

経済成長を無限に追い求めながら、人間の人生の意味について問わないことは不可能です。

私たちは単に経済的に発展するためにこの世に生まれてきたのではありません。

私たちは幸せになるために生まれてきたのです。

人生は短く、あっという間に過ぎ去ります。

どんな物質的な財産も、命ほどの価値はありません。

これは私が「野蛮人になる」と言っているのではありません。そうではありません。

私が言いたいのは、豊かな社会の消費モデルを無限に続けることはできないということです。

そのモデルを支えるためには、地球全体をゴミで溢れさせなければならなくなるでしょう。

現代文明は、私たちを過剰な消費と「使い捨て文化」へと追い立てています。

物は長持ちしません。

電球は1,000時間以上は持たないように作られています。

しかし、10万時間持つ電球を作ることも可能なのです。

しかし、それは市場が求めていないために製造されません。

私たちは市場の奴隷です。

市場が私たちの生活を組織しています。

そして私たちは、市場を支配する代わりに、市場に支配されているのです。

グローバリゼーションが支配しています。

このグローバリゼーションは環境も、人間も顧みません。

では、私たちはどの道を進むべきでしょうか?

私は「洞窟時代に戻ろう」と言っているわけではありません。

発展を止めるべきだとも言いません。

しかし、この浪費の文明を続けるわけにはいきません。

これは政治的な問題です。

古代の思想家、エピクロス、セネカ、そしてアイマラの人々はこう言っています:

「貧しい人とは、少ししか持たない人ではなく、限りなく多くを必要とし、さらにさらに欲しがる人のことである。」

これは文化的な問題です。

だからこそ、私たちが環境のために戦うとき、最初に考えるべき環境の要素は人間の幸福です。

そして人間の命です。

最も基本的な要素は水です。

私たちは、幸福は消費にあるのではないと考えるべきです。

浪費の中にあるのでもありません。

幸福は節度の中に、簡素さの中に、自由の中に、そして人間的な愛情を育む時間を持つことの中にあります。

友情を育て、愛を育て、冒険を楽しみ、子どもを持つことです。

幸福はそうした小さなことにあります。

なぜなら、人生の意味は自由にあるからです。

そして自由であるためには、時間が必要です。

もし私が消費と浪費を支えるために働き、働き、また働くなら、私はいつ自由になるのでしょうか?

だからこそ私は主張します。開発は幸福に逆らってはなりません。

開発は人間の幸福、愛、人間関係、本質的なもののためにあるべきです。

なぜなら、水も、環境も、川も、森も、どんな経済的利益よりも価値があるからです。

ご清聴ありがとうございました。

ムヒカの有名なスピーチは原稿を用意して読み上げたものでは無かったそうです。日ごろから考えていることを思いのままにスピーチしたと言います。この信念は、ルシアさんと二人で農園生活を実践するなかで形成されたものでした。

上記の本では作家の有川真由美さんがルシア・トポランスキーさんにインタビューして、また自分自身の思索を加えて、その人生哲学を紹介してくれています。それが、シンギュラリティ革命の時代を生きるヒントになると思いましたので、管理人の読解をご紹介したいと思います。


第1章 生きる意味をみつけなさい

どんな人でも、どんな場所でも、かならず生きる意味を見つけられる。

だから、自分のやりたいことを見つけて、そこに向かって進みなさい。

アウシュビッツ収容所体験を書いたヴィクトール・フランクルの「夜と霧」にも書かれている。「あなたが人生に絶望し、もうなにも期待しなくなったとしても、人生のほうは、あなたに絶望することはない。人生は、死の瞬間まで、あなたに期待しているのだ。」

ルシアさんの人生は「困っているひとが少しでも良くなるように」という思いで突き動かされてきたものだった。それは経済的なゆたかさを追求することとは違うものだった。

第2章 ものごとは、明るく輝く面だけでなく、暗い側面も見なきゃいけない

ウルグアイは20世紀前半に戦争に巻き込まれず貿易需要が高まり経済的に繁栄し民主主義が成熟していたが、第二次大戦後に戦争当事国が復興する過程で貿易需要が下がり経済的に衰退し軍事政権が誕生して人権も後退してしまった。ムヒカ夫妻は貧困をなくす活動を続けてきた。経済が後退する社会がどのように進むのか、ウルグアイは日本の未来の参考になるのではないか。

「私たちは、明るく輝く面だけでなく、暗い側面も見なければなりません。みんなの平和が得られるのか、それはまだわからないけれども、そのために働いているんですよ。だから、けっして希望を捨てないことが大切です。」

現実をよく見て、疑問を持ってよく考えて、そして行動に移す。このサイクルが大切だ。

第3章 譲ることを覚えなさい

ルシアさんは、これまでの人生でいちばん学んだことを問われ答えています。

「世の中は、黒と白でわけられないことが分かった。さまざまな人と一緒に共同生活をしなきゃいけないから、あるときは譲らないといけないってこと。」

「人生はひとつだけ。スーパーで人生は買えないのよ。ですから、その人生をできるかぎりいいものにしなきゃね。一人じゃなくて、だれかといることが大切です。そこで、人と人との間で、どれだけ譲らないといけないか、社会のことも学べるんですよ。」

第4章 愛のあることに時間をかけなさい

ルシアさんは言います。「男と女は、一緒にいなきゃいけないのよ。」

ムヒカさんは言います。「唯一よい中毒は愛すること。それ以外は、忘れてしまいなさい。」

アルゼンチンの若いカップルは、どんなに忙しくても、ほとんど毎日会うという。日本人は愛情表現が苦手かもしれない。日本人はもっと、情熱や愛に向き合うことが必要だ。

第5章 自分が持っているものを知り、それを大切にしなさい

ムヒカさんは言います。「幸せは人間のように命あるものからしかもらえない。物は幸せにしてくれない。」

「人がものを買うときは、お金で買っているのではない。そのお金を貯めるために割いた人生の時間で買っているのです。」

日本にはもともと、持っているものを大切にする精神があったのに、それを現代の日本社会は忘れかけているのかもしれない。

第6章 生きたいように生きなさい。そして、この世界になにかを置いていきなさい

ルシアさんはインタビューの最後に言いました。「私たちはだれもが、世界のほかの人のために、なにかやったということを置いていけるんですよ。」

それは、「歴史に名を残す」、「記録を残す」といった大きなことではなくても、なんでも良いのです。ほんの少しのことで良いのです。

「だって私たちは、ここに通過的に生きているだけでしょう?でも、あなたが生きたことを、受け取ってくれる人がいるはずです。」

なにかを置くということは、誰かの役にたつ、ということだろう。誰かに喜んでもらうということだろう。財産はあの世に持って行けないが、誰かの役に立ったという満足は持って行けるだろう。やりたいことをやって満足しなさい、ということだ。


この本は、ムヒカさんのリオ演説も全文引用されていますし、ルシアさんの独占インタビューも入っており、ムヒカ夫妻の思想を学べる本に仕上がっています。現代の物質文明社会を追い求めるのは、幸福には繋がりませんよと教えてくれています。幸福というのは、「生き物」からしか、与えられませんよ、と教えてくれます。この本を、すべての女子中学生、高校生、大学生に推薦致します。もちろん、男子学生にも!社会に出る前に読んでおくべき本です。


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