IMFの世界経済見通しWorld Economic Outlook などを読んでおりますと、次のような言葉が出て来ることがあります。
---WEO2019年10月より
金融政策も景気を刺激してきたが、金融面のリスクが蓄積しないことを確実なものにしておく必要がある。「国際金融安定性報告(GFSR)」でも議論したように、金利が長期にわたって低い水準にとどまると見込まれているので、金融面が脆弱になるリスクも無視できなくなっており、有効なマクロプルーデンス政策が今日では不可欠となっている。
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ここでいう「マクロプルーデンス政策」というのはマクロ経済の観点から金融システムの安定性に注意を払い、必要に応じて予防策を取るというような意味合いです。prudence は形容詞prudent の名詞形で、慎重さ、注意深さ、というような意味です。WEOではもう少し踏み込んで具体的な政策提言して欲しかったところですが「マクロプルーデンス政策が不可欠」という言葉で間接的に警鐘を鳴らしているだけです。
※日銀による解説ページ
https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/pfsys/e14.htm/
マクロプルーデンス政策が必要であると認識されたのは、2008年リーマンショックで「100年に1度」といわれるような経済危機が起きた後のことでした。このような惨状を二度と繰り返さないために、マクロ経済の視点で金融システムの安定性に注意を払うべきであるという認識が、世界の金融当局者の間で共有されているのです。
具体的に言えば、世界債務の対GDP比がどれくらいを超えたら注意すべきなのかを常に監視するということです。株式市場の時価総額が対GDP比でどれくらいを超えたら過剰な過熱状態であると判断すべきなのか、検討するということです。
株式市場時価総額を名目GDPで割った割合は、バフェット指数と呼ばれており世界中の機関投資家が毎日監視している重要な数値です。本来米国株に関する指標ですが、これを世界時価総額と世界GDPに拡大して考えてみることも有益でしょう。
※世界株式時価総額=85兆ドル(2019/9)
https://focus.world-exchanges.org/statistics/articles/q3-2019-equity-markets-update
※世界名目GDP=86.6兆ドル(2019年)
https://www.imf.org/external/datamapper/profile/WEOWORLD
※世界債務=250兆ドル(2019/11)
https://www.iif.com/Research/Capital-Flows-and-Debt/Global-Debt-Monitor
年度 | 世界株式時価総額(出典WFE、単位兆ドル) | 世界GDP(出典IMFWEO、単位兆ドル) | 米国民間総債務(出典IMF、対GDP%) |
---|---|---|---|
2005 | 40.8 | 47.57 | 199 |
2006 | 50.6 | 51.54 | 204 |
2007 | 60.8 | 58.16 | 212 |
2008 | 32.5 | 63.78 | 212 |
2009 | 47.7 | 60.44 | 213 |
2010 | 54.8 | 66.07 | 204 |
2011 | 47.4 | 73.31 | 199 |
2012 | 54.7 | 74.69 | 197 |
2013 | 64.2 | 76.84 | 195 |
2014 | 67.6 | 78.94 | 196 |
2015 | 68.0 | 74.78 | 196 |
2016 | 71.0 | 75.82 | 200 |
2017 | 87.1 | 80.26 | 201 |
2018 | 74.4 | 84.93 | |
2019 | 86.5 | 86.6 |
債務危機、金融危機が発生すると、株式や不動産など、あらゆる資産価格が下落しますので「逆資産効果」により、あらゆる民間部門の経済活動が停滞してしまうことになります。マクロプルーデンス政策は他人まかせにするのではなく、各個人がマクロ経済の絶対基準を持っていることが大切でしょう。
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