米国のAI・ロボット研究者ハンスモラベック、ロドニーブルックス、マーヴィンミンスキーらによって提示された問題提起で、人工知能の進化により、高度な知的労働を代替することは容易であるが、逆に、幼児でもできるような顔などの認識や身体の動きを代替していくことは相対的に困難である、という推論です。モラベックの1988年の Mind Children(ハーバード大学出版局)という著書に次のように提示されています。
“it is comparatively easy to make computers exhibit adult level performance on intelligence tests or playing checkers, and difficult or impossible to give them the skills of a one-year-old when it comes to perception and mobility”
(和訳)コンピューターが成人レベルの知的作業を行うことや、チェッカーなどのボードゲームを(成人なみの能力で)行うことは、比較的容易であるが、1歳児にもできる認識能力や身体動作の技能を与えることは非常に困難または不可能なことである。
つまり、体を動かすだけの単純労働よりも、高度な知的労働の方が先にAIに代替されてしまうであろうという予言です。例えば、病院の世界で言えば、患者を診察して診断を下し処方箋を発行する医師の知的労働よりも、患者を介助する看護師や病院職員の身体労働の方がロボットやAIには代替するのが難しいということです。
モラベックは1980年代に、「1歳児が母親の顔を認識するようなことでも、コンピューターには真似が難しい」と論じましたが、この論点は、驚くべき事に、コンピューターの計算能力の向上と、ディープラーニング機械学習の進歩により、むしろ人間の認識能力を超えるレベルに到達するに至っています。しかし、人間の様々な認知能力の中でも、感情の理解は相変わらず苦手ですし、身体動作の点では、未だ人間に遠く及ばない現状となっています。
しかし、モラベックらの問題提起は、引き続き我々に対する警告を与えていると思います。従来の価値観で、価値の高い仕事や、報酬の高い仕事も、AIの進歩により、急激に価値が無くなる可能性があることを示唆しているからです。
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