20年間で3万6000パーセントの運用実績を叩き出した伝説のファンドマネージャー、マークモビアスのデフレ解説本です。大学の時に経済学の勉強が不十分だったなあと反省させられますが、たとえ大学で経済学を勉強したとしても、2000年以降の中央銀行の動きを知らなければ21世紀のデフレを理解できません。その21世紀の中央銀行の悪戦苦闘が詳細に記述されている本です。「デフレの世界」という題名ですが、9割方はインフレの説明になっています。人類の歴史のほとんどはインフレとの戦いだったわけですから、ある意味当然かもしれません。
さて、この本に、物価と、インフレとデフレと金融政策の関係で重要な基礎知識が説明されていましたのでご紹介したいと思います。AI革命シンギュラリティの時代を乗り越えるのに必修知識だと思います。
フィリップス曲線・・・ニュージーランド出身の経済学者AWフィリップスが1958年に提唱した経済理論で、Y軸をインフレ率、X軸を失業率として計測すると、右下さがりの凹曲線が描かれて、「インフレと失業率が逆相関の関係にある」とするものだった。しかし、1973年から1975年にかけてアメリカGDPが減少し続けたのに物価が3倍になるスタグフレーション(不景気の物価上昇)が発生して、反証となってしまった。
テイラールール・・・1993年、スタンフォード大学のジョン・テイラー教授が提唱したもので、インフレが1パーセント上昇すると、中央銀行が名目金利を1パーセント以上引き上げようとするという現象。
フィッシャー効果・・・アメリカの経済学者アービング・フィッシャーが1932年に提唱した理論。デフレは債務の実質的負担を増大させ債務返済資金を増やすことになり更なるデフレを招くとする理論。いわゆるデフレスパイラルというもののことかもしれません。
貨幣錯覚・・・アービング・フィッシャーが1928年の著作で提唱した概念。通貨の購買力は不安定なものであるにも関わらず、人々は実質値ではなく、名目値に従って行動してしまうこと。
インフレターゲッティング構想・・・ジョン・メイナード・ケインズが1923年の論文で提案した金融政策。インフレの水準に応じて通貨を調整し、インフレ率を適正水準に誘導することにより失業率を下げようとするもの。1990年代に、ドイツ、ニュージーランド、カナダ、イギリスが導入した。1998年、イギリス金融政策委員会は2.5パーセントの物価目標を設定し、2003年12月には2パーセントに変更された。
フォワードガイダンス・・・連邦公開市場委員会(FOMC)は、2000年代初頭に、会議後の声明でフォワードガイダンスを使用し始めた。現在の金利だけでなく、将来の金利に言及することにより、インフレ率を高めようとする政策。将来の金利を操作するのは、長期国債を買い入れて長期国債の利率を下げる「イールドカーブコントロール長短金利操作」も同様の趣旨の政策です。
※FRBによるフォワードガイダンス説明
※日銀によるイールドカーブコントロール説明
https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/seisaku/b27.htm/
この本には、様々な専門家の意見も紹介されています。味わい深い言葉ですので、いくつか紹介します。
経済学者フリードリヒ・ハイエク「歴史とはインフレの歴史といっても過言ではないと思う。」
経済学者フランツ・ピック「価値を維持できる通貨は存在しない(ゴールドこそ最良の通貨である)。」
金融出版創業者ジム・グラント「19世紀最後の25年、電力やほかの素晴らしい技術が広がったおかげで、物価は毎年1.5~2パーセントずつ下落した。人々はこれをデフレとは呼ばなかった、進歩と呼んだのである。」
※グランツ利率観察トップページhttps://www.grantspub.com/
我々は毎日のニュース記事などで、FOMCや日銀金融政策決定会合の金融政策の動向を目にしますが、そこで決められる金融政策は、つい最近始まったばかりに過ぎないと分かります。
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