新しい物語「ネオアニミズム」

ジェイソン・ヒッケル、資本主義の次に来る世界

まず、管理人の読解を示します。


資本主義の次に来る世界

第1章、資本主義–その血塗られた創造の物語
ワット・タイラーの乱をはじめとする14世紀から15世紀の農民反乱により、農奴制に支えられた封建制は崩壊していった。自由農民はコモンズを集団で管理した。資本主義は、上流階級による土地の囲い込みによって始まった。自由農民の自給自足は崩壊し、賃金労働者に移行し、資本家による資本の蓄積に利用された。更に新大陸の発見から、植民地化と奴隷貿易が拡大し、資本主義の成長を支えた。囲い込みと植民地化が資本主義の成長の基盤だったのだ。植民地ではコモンズが破壊され人為的に希少性が創出された。

第2章、ジャガノート(圧倒的破壊力)の台頭
資本主義の破壊力は個人的な強欲から派生するものではない、それは使用価値から乖離したウイルスのような資本の自己複製である。クズネッツが開発したGDPは、各国政府が「GDP成長は貧困を減らし、雇用を創出し、人々の生活を向上させる唯一の方法だ」と主張する根拠に使われた。それは「人間の幸福」に関して過激なクーデターが起きたことを意味する。1945年以降、資源消費量が爆発的に増加し、科学者たちはそれをグレート・アクセラレーションと呼んだ。気候破壊の責任の9割以上はいわゆるグローバルノースに集中しており、この状況は、大気泥棒、大気の植民地化、植民地主義2.0として理解されるべきだ。「成長の限界」という警告は、21世紀に入り「地球生態系の限界、プラネタリー・バウンダリー」へと更新された。生態系の限界を超えていても経済成長は可能なのである。

第3章、テクノロジーはわたしたちを救うか?
成長主義は持久力と、宗教に似たイデオロギー的情熱を備えている。産業革命期のイギリスの経済学者ウィリアム・ジェヴォンズは、効率的な蒸気機関の発明にも関わらず資本家の再投資により石炭消費量は逆に増大するというジェヴォンズのパラドクスを発見した。グリーンニューディール、グリーン成長というのは夢物語である。

第4章、良い人生に必要なものとは何か
コスタリカの一人当たりGDPはアメリカの7分の1だったがアメリカの平均寿命を追い越した。GDPと幸福感の繋がりは希薄なのである。公共サービスやコモンズへのアクセスを拡大すれば、人々の福利購買力を向上させることができるだろう。GDPの代替指標の模索が始まっている。OECDは、住宅、仕事、教育、健康、幸福などの福祉指標を組み入れた新しい指標ベターライフインデックスBLIを発表した。ウェルビーイングエコノミー幸福経済の重要性に各国指導者が気付き始めている。

第5章、ポスト資本主義への道
気候変動という緊急事態に対処するために我々に必要なことは脱成長である。成長に依存した経済が成長を止める時には大惨事を引き起こすが、成長を必要としない経済に移行すればGDPが減少しても問題は起きない。その経済の中心になるのは、人間の繁栄と生態系の安定である。大量消費を止める5つの非常ブレーキに留意する必要がある。①計画的陳腐化を終わらせる、②広告を減らす、③所有権から使用権へ移行する、④食品廃棄を終わらせる、⑤生態系を破壊する産業を縮小する。例えば、世界の農地の60パーセント近くが牛肉を生産するために使われている。他にも、軍事産業、プライベートジェット、使い捨て製品、SUV車、乱造マンションなども検討すべきである。公共サービスを脱商品化し、コモンズを拡大し、労働時間を短縮し、不平等を減らすことにより、人々は豊かに暮らすために必要なものにアクセスできるようになるだろう。新たな経済では、債務を帳消しにする必要があるし、複利を廃止して単利に切り替えるべきであり、銀行には100パーセントの準備金を要求すべきである。直接民主制の集団による意思決定では、持続可能な選択が行われたとする調査があった。これは生態経済学者が「定常経済」と呼ぶものである。我々は資本主義には反民主主義的な側面があることを認識すべきである。

第6章、すべてはつながっている
セバスチャン・サルガドの写真を見れば現代文明が抱えるトラウマを再認識させられるだろう。サルガドは集約的な畜産によって森林破壊された農園を相続していたが、母国ブラジルに帰国して土地を大西洋岸の熱帯雨林に戻す活動を開始し、13年で森林を回復させた。脱成長、脱植民地主義は、2010年のコチャンバ人民合意に現れている。アマゾンのアチュエル族のアニミズムに基づいたエコロジカルな暮らしが参考になるだろう。アチュエル族にとって全ての動植物は魂(ワカン)を持ち、人間と同じであり、「自然」という対象物は存在しない。アチュエル族は動植物を親類と見ているのだ。20世紀後半の生物学は、人間と細菌やウイルスの共生を明らかにした。また我々の細胞が持つミトコンドリアは核と別のDNAを持ち、進化の過程で共生に至ったと考えられている。これらの知見は我々自身の存在論にも波及するものだ。これは最新科学の知見であるが、古来アニミズムの知見でもある。既に、環境再生型農業、リジェネラティブ農業を実践する勇敢な農家も現れている。複数の作物を同時に植えることで回復力のある生態系を築いているのだ。2017年にニュージーランドでワンガヌイ川に法的人格を認める判決が出た。マオリ族が長年権利を主張してきたのが認められたのだ。未来は私たち次第で変えられるはずだ。


本当は最終章に、デカルト二元論とスピノザ汎神論の逆転の話、当時はデカルト優勢だったが、現代ではスピノザが優勢になっているというのも面白かったのですが、簡潔に紹介することが難しくて断念しました。原著を読んでください。

ごめんなさい、タイトルにある「ネオアニミズム」というのは、管理人が感じ取った言葉であり、この本には出てこない単語です。この本の題名は「Less is more」つまり「少ないほうが豊か」ということなんでございます。それで、アニミズムに学ぼうということも書いてあるのですが、それは、生態系の共生に関する最新の科学知見に基づくものであるという説明があるんですね。それなら、このアニミズムは「ネオアニミズム」と言って良いんじゃないかと思ったわけでございます。

※参考記事

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