TCP/IP と https でインターネット革命が起きて世の中便利になりましたが、便利になったのは市民だけでなく、統治する側の政府も便利になりました。街の落書きやビラ貼りでは誰がやったのか分かりませんが、インターネットなら、必ずIPアドレスがあるので、IPアドレスを辿っていけば発信者にたどり着くことができます。さあ、その発信者を逮捕せよ!というわけで、簡単に検閲や言論統制ができてしますのです。実際かの中国では国内のインターネット回線には言論統制のグレートファイアーウォールが設置され、政府に批判的な言説は通信できなくしています。
それで、中国では毎日、ネットユーザーと政府のイタチごっこが行われています。プロキシーサーバー(代理サーバー)を使う方式や、VPNを使った暗号トンネル方式などが試みられていますが、政府が設置したルーターはこれらのソフトのパケットを遮断する設定を行い、通信できなくしています。
そこで、というわけでもありませんが、全世界のネット検閲に対抗するために、インターネットの中に秘密結社を作って、その中で通信すれば誰も検閲できないという仕組みが考え出され、ソフトウェアが開発されています。それがtor プロジェクトです。むいてもむいても中身が出てこないタマネギに例えて、匿名情報発信サイトのことをonionドメインで指定する決まりです。
例えば、こんなものがあります。
BBC https://www.bbcnewsv2vjtpsuy.onion/
ニューヨーク・タイムズ https://www.nytimes3xbfgragh.onion/
これは、形式上普通のURLの様に見えますが、これは普通のブラウザでアクセスできるURLではありません。特定のソフトをインストールしたPCだけで閲覧できる擬似URLなのです。そのサイトも普通のインターネットからはアクセスできず、特定のソフトウェアをインストーPCだけで閲覧できる、擬似サイトということになります。
それが、Tor ブラウザです。これはブラウザと呼ばれていますが、単なるブラウザではなく、ピアツーピア通信クライアントソフト+ブラウザです。これはピアツーピア通信の一種で、インターネット接続を全参加者(ソフトインストール者)が共有する方式になります。2020年10月にはBraveブラウザがTorの正式サポートを発表しています。
普通のインターネットから見ると参加者のうちのひとりのIPアドレスが出てきますが、本当の発信者は別の人かもしれません。匿名性が高いのでダークネットとも呼ばれ、注意が必要です。ソフトをインストールしただけで、IPアドレスを犯罪者に使わせてしまう可能性を生じているのです。
パソコン遠隔操作事件では、犯人がTorと代行スレッドを使って遠隔操作マルウェアを匿名掲示板に書き込み、それを誤ってインストールしてしまったサラリーマンなどが誤認逮捕されてしまいました。ウイルスの場合は既存のプログラムに寄生するために、プログラムの先頭に特徴的なジャンプ命令が入りますが、マルウェアの場合はそういう特徴はありませんので、「新作」のマルウェアは中々ウイルス対策ソフトでは除去しにくいのです。普通のソフトの体裁をしているのですが、「イケない処理」をしているということなんですね。表向きは付箋ソフトとかの体裁で、裏で遠隔操作やキーロガーなどが動いているというわけです。それで、インストールできるソフトを極限まで制限しているのが、ウインドウズのSモードというやつですね。
確かにこれは「安全」と言えるものですが、好きなプログラムをインストールできないのですから、もはやパソコンとは言えないかもしれません。パソコンがスマホみたいになってしまった感じです。それでも、ブラウザのアクセスやメール送受信などには何ら支障はありません。
ともかく、インターネットの世界では、秘密結社Torのようなものから、ウインドウズSモードみたいなものまで、幅広く色んなものがあるというわけでございます。その幅が、毎日少しずつ拡大してきているということを感じて下さい。
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