アメリカのコーネル大学の栄養生化学部名誉教授のコリンキャンベルさんは、酪農家の実家に生まれ、家畜から摂るタンパク質摂取を増やすことにより人類の健康に貢献できると信じて栄養学の研究キャリアをスタートさせましたが、ピーナッツなどに生えるカビの成分であるアフラトキシンという発がん物質の食品汚染を調査しているうちに、フィリピンでタンパク質を多く摂取している子供たちに肝臓がんの発症率が最も高いという調査結果に直面し、インドの研究グループも動物実験で同様の研究報告をしていることを知りました。
※アフラトキシンの発がん性に対するタンパク質摂取の影響
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/4294825/
この論文では、アフラトキシンに暴露させたラットを2グループに分けて、20パーセントの動物性タンパク質(カゼイン)を与えたグループと5パーセントしか与えないグループに分けたところ、20パーセントのグループは例外なくガン細胞を発生させたが、5パーセントのグループは1匹も発症しなかったというのです。
これをきっかけとしてキャンベル博士は国土が広く様々な食生活の民族が含まれ栄養調査に最適であった中国で食生活と発がん性の関係についての調査研究を行い、アフラトキシン暴露と肝ガン発症率には関連性が無いという研究論文を発表し、植物主体の未精製食品plant-based whole foods, PBWF食がガン罹患率の低減に役立つという結論に至り、china study という一般書も出版しました。
PBWF食というのは、完全菜食主義のヴィーガンに、更に加工精製食品も除外して、食材を丸々摂取しようとするもので、玄米や全粒粉などの全粒穀物を摂り、精製油脂の摂取もやめてしまうというライフスタイルです。カロリーの8割を未精製炭水化物で摂り、1割が脂質、1割を植物タンパクで摂ります。
※アフラトキシン暴露と肝ガン発症率に関連性が無いとする報告
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/2208157/
しかし不思議なことに、著者の提言は医学栄養学会ではほとんど無視され、ガン撲滅運動にほとんど影響を与えることが無かったのです。そこでキャンベル博士は、栄養学の教授なのですが、医学栄養学と政治的意思決定の繋がりを深く考察し、そこには、リダクショニズムという細分化主義と、ホーリズムという全体主義のパラダイムの分断があるという結論に至ったのです。これはもう社会科学の分野に入り込んでいます。食品産業、医療産業、医薬品業界、学術界、政界が一体となって、利益誘導により現行システムの維持に固執していることが、栄養学的解決策から全国民の目を離しているという分析に至りました。栄養素や遺伝子など、物事をどんどん細分化して定量的に分析していくことにより、かえってライフスタイル全体からのガン予防策を見えにくくしてしまっているというのです。
体内で行われている代謝反応はそんなに単純なものではなく、数えきれないほどの多くのパラメーターが相互に作用しながら、人体全部の生命活動を支えているのです。物事を細分化して観察するのではなく、全体から観察して有効な知見を得ようとする全体主義(ホーリズム)の見方が役立つはずなのに、現行パラダイムはことごとくこれを拒否しているというのです。医薬品業界や食品業界や医療業界が現在の利益を維持するために、現在のシステムを変えるわけにはいかないというわけです。
これを読んで、我々のシンギュラリティ対策も同じだと思いました。現行パラダイムの内側だけで考えていたら、真実が見えなくなってしまうおそれがあります。個々の技術を細分化して観察するだけでなく、人類全体の科学技術の開発と受容がどのように進んでいくのか、全体的に考察していくことも必要になります。ホーリズムの見方が求められています。
リダクショニズムとホーリズム
リダクショニズム医学 | ホーリズム栄養学 | |
---|---|---|
観察対象 | 細分化(細胞、遺伝子) | 全体化(全身状態) |
医学体系 | 西洋医学 | 東洋医学(漢方医学) |
治療方針 | 対症療法 | 予防的療法 |
診察対象 | 症状に着目 | 根本原因に着目 |
治療処置 | 個別処置を好む | 体系的な処置を好む |
投薬 | 人工の化学物質 | 自然の食べ物、薬草 |
副作用 | 別の薬で軽減させる | 副作用なし |
万能薬 | 存在しないと考える | PBWF食が万能であると考える |
ガンの原因 | 発がん物質による遺伝子変異 | 遺伝子変異と動物プロテインや酵素の複合要因 |
推奨される食事 | 動物タンパク、サプリメント、乳製品 | 動物タンパクや精製食材を食べないPBWF食 |
食事療法 | 一時的なダイエットで補助的治療効果 | 生涯続けるライフスタイルで主要効果 |
手術 | 根治できると評価された侵襲的標準治療 | 食事を変えなければ根治できないと評価 |
パラダイム | 現行パラダイム | 新しいパラダイム |
目的 | 人類の健康や地球環境の持続可能性を犠牲にしてでも、特定の業界の利益を増やし続けること | 人々の健康と幸福と地球環境の持続可能性 |
問題解決法 | 購入して使用するだけで魔法のように簡単 | ライフスタイルの転換なので努力と時間を要する |
学校給食の飲み物 | 牛乳 | 水 |
※参考記事
※参考サイト
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