法政大学社会学部の教授が書いたグローバルベーシックインカムの本です。ちょっと20世紀の常識からは理解しにくい概念が登場します。様々な概念を箇条書きにして整理してみたいと思います。
批判開発学・・・2015年の国連総会で採択された持続可能な開発目標SDGsを定めたアジェンダ2030の現状認識。先進国が後進国を指導して世界全体を開発していくという無邪気な開発論ではなく、このまま従来通りの開発を続けたら地球環境の持続可能性が破壊され、人類の持続可能性も絶たれる、という認識に立ち、批判的に開発方法を考えていく。世界観の転換。
古代ギリシャの市民所得・・・アテネ都市国家の直接民主制を支えるための自由市民に与えられた所得。無資産者や奴隷や女性が除外されていた。
ユートピア・・・トーマスモアの著作「ユートピア」に描かれた理想郷。市民には所得補償が与えられる。
公地公民・・・日本の律令制では班田収授法により6歳以上の男女に口分田が支給され徴税された。中国北魏や唐代の均田制を起源とする。これをアジア的なベーシックインカムの起源と解釈できる。
グローバルベーシックインカムの8要素・・・①現金支払いcash payment、②勤労義務なしunconditional、③資産調査なしuniversal、④個人向けto individuals(世帯や家族向けではない)、⑤定期的periodic、⑥生涯継続life-long、⑦生存可能水準enough-to-survive level、⑧地球規模global(国レベルではなく全人類向け)。
古代的ベーシックインカム・・・ナショナリズムと併存するベーシックインカム。家父長制や封建制とも矛盾しない。外国人や、女性や奴隷が対象外とされる。対義語は、ヒューマニズムに基づくグローバルベーシックインカム。
負の所得税・・・低賃金あるいは無報酬の「第二労働市場」を創出し、生活維持に必要な所得給付を国が保障する。
プレカリアート・・・不安定なprecariousとプロレタリアートを掛け合わせた造語。不安定な非正規労働者や失業者の総体を指す。
人類遺産持株会社・・・世界中の多国籍企業の株式を所有する持ち株会社。51パーセントの株式を、人類の成人全員が1人1株所有して、議決権を行使し、配当を受領する。この株式は一身専属権であり売買譲渡できない。
岡野内教授のHPから引用します。
地球をまたにかけて活動する企業(多国籍企業)の株式の過半数の所有権は、人類遺産として、人類遺産持株会社が所有する、とする。新しいその持株会社の株主は、人類ひとりひとりがなる。生得権であり、譲渡できない株として、生まれて、死ぬまで、一人一株を持つ。
人類遺産持株会社の手元には、全世界の多国籍企業株の配当の過半数が入って配当収入になる。持株会社は、その配当収入を財源として、全人類ひとりひとりに、それぞれの地域で生存可能水準の金額を配当として、ベーシック・インカムとして配る。
ざっと計算してみると、そんな持株会社を作れば、その配当収入は、十分に、全人類のベーシック・インカムの財源になる。
(引用おわり)
ちょっと理想主義が強い気も致しますが、2015年に「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が国連で採択されたことは事実です。
古代ギリシャや日本の律令制の時代から、ベーシックインカムの試みは繰り返し試され、そのつど失敗してきました。勿論、マルクスレーニン主義の実験も資本主義との競争に敗れ挫折しています。
それが、21世紀になって、資本主義の生産性革命が行き着くところまで進化し続けて「ゴール」が近づいてきて、開発余地・成長余地が減少し、名目金利がゼロになっても止まらず、実質金利がマイナスに成り果てましたので、今度こそ、21世紀のベーシックインカムが根付く可能性が出てきました。
ある意味で量的緩和策がもたらしているマイナス金利というものは、それ自体が全人類に対するベーシックインカムとして支給されていると考えることもできます。実際コロナ対策では、特別給付金という形でアメリカでも日本でも世界各国で現金が配布されました。
資本主義の生産性革命が進展すればするほど、いやおうなしに、グローバルベーシックインカムは進展せざるを得ないのです。多国籍企業の収益が増加し、それが納税されるからです。要するに、その収益の使い方の問題です。
※参考書籍
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