なぜ、ベーシックインカムが世帯単位ではなく個人に支給されることを求められているかご存知でしょうか。この本には書いてあります。1968年にイギリスバーミンガムで始まったイギリスの要求者組合連合についての記述を引用します(初版90ページ)。
シングルマザーの福祉受給者に対して、福祉当局は「同棲ルール」と呼ばれる規則を適用していた。これはもし同居している(あるいは定期的に性的関係をもっている)男性がいれば、給付を打ち切るというものである。そのためケースワーカーや当局に雇用された査察官(彼女たちは彼らを「セックス・スパイ」と呼んだ)による監視や辱めが行われていた。こうした辱めから自由になるには、ベーシック・インカムのような制度こそが必要だと彼女たちは考えたのである。ベーシック・インカムの無条件性や個人単位といった特徴がどのような脈絡で形作られていったかが、よく分かる。
これって、現代日本の世帯単位の生活保護制度もほとんど変わらないですね。誰とどのように交際するかなんて自由のはずなのに、それが給付に影響し、結局個人の生活を大きく束縛するなんて馬鹿げています。
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日本の生活保護捕捉率(必要な人が受給できている割合)は22パーセントだそうです。イギリスは87%、ドイツは85%なのに、低すぎます。日本では生活保護は絵に描いた餅なんですね。
令和2年の一人当たり10万円のコロナ給付金も世帯主が申請して世帯全員分を受領する仕組みだったから、住民票を残している別居家庭ではどうするのか、家庭内別居だったらどうなのか、など、問題になりましたね。受給者を選別することは、大きなスティグマ(ストレス)の始まりというわけです。
水が低きに流れるように、生産性革命により生活コストが低下し、人々の雇用必要性が低下し、ベーシックインカムを配布するようになる時には、それは必然的に無条件の個人単位の配布にならざるを得ないでしょう。
日本では児童手当という形の給付は開始されていますね。これは所得制限をやっているので、毎年の現況届や支給判定など、膨大な事務作業をやっています。どうせ高所得者には多額の税金を課税しているのですから、子供全員に一律で支給してしまって、高所得者にはその分税金をプラスしておけば良いというわけです。同じように、老人手当を開始し、そのうち大人手当になって、もう、全員のベーシックインカムに変わっていくというわけです。これは働くことが難しくなる多数派の同意を得やすい政策ですから、民主制の過程を経て実現されやすい政策だと思います。これを実現するには、「生産性革命を邪魔しないこと」、「従来の給付を発展的に解消することの理解」、この二つが必要になります。
そういえば令和3年の新しい政権では、「新しい資本主義」、「分厚い中間層の復活」という政策を掲げているようですが、それは「生産性革命を邪魔しないこと」という条件に反することになると思います。時代を逆行させようとしても無駄な努力じゃないかと思います。日本が停滞しているうちに、欧米中国がドンドン先に行ってしまいます。
やはり、日本もトップランナーに思う存分走って頂き、世界で稼いで頂き、沢山納税して頂き、みんなで分配すれば良いのです。今年のノーベル物理学賞を受賞した地球科学の真鍋淑郎氏は、日本に戻りたくない理由を問われて、「日本に戻りたくない理由の一つは、周囲に同調して生きる能力がないからです」と回答しました。日本社会の同調圧力は強すぎるんじゃないでしょうか。日本の「失われた30年」の根本原因ですね。シンギュラリティを生き抜くために、日本のガラパゴスルールから自分だけでも脱皮しなければなりません。
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