南部陽一郎の世界観

クォーク第二版、南部陽一郎

分からないながらも根性で読むと一気に視界が開けることもあります。この世の質量の根源を発見してしまった南部陽一郎博士の本の弱い相互作用の章に不思議な文章がありましたので、ご紹介致します。


神が宇宙の設計をしたとき、重力、電磁力、強い力などの構成については公式に従って正確に図面をひいた。しかし、弱い力にきたときに計算ちがいをしたのか、物指しを読みちがえたのか、図面のところどころにくいちがいが生じてしまった。直線は垂直に交わらず、四辺形はうまく閉じない。そして弱い力の骨組が他の力の枠に対して少し傾いている。けれども遠くから見たのではあまり目立たないので、神はそれをそのまま使って宇宙を建ててしまった。

(中略)

なぜ弱い相互作用の枠が他に対して傾いているのかは未解決の謎である。しかし、もし傾きがなく、神の設計が完全だったらどうだろうと想像してみるのもおもしろい。クォーク、レプトンの各世代は質量以外はみな同じ性質をもち、それらが混じることがなければ世代は一つの保存量となる。その場合は例えば第二世代の中でc→sの変換が生じても、sが更に第一世代のuに変わることはできない。だからラムダ粒子ΛやKメソンは安定、一般に原子核は陽子、中性子、Λなどから構成され、世界はずっとちがったものになるだろう。生物が存在できないかもしれない。傾いた枠の設計も実は理由があったのではないだろうか。


いやあ物理学者の文章とは思えないような幻想的な文章です。幻想文学と言っても良いでしょう。南部博士は、坂田昌一博士の「素粒子の層は無限にある」という無限階層論も紹介しています。物理を研究すればするほど、微細な素粒子を突き詰めれば突き詰めるほど、人知の限界を強く意識せざるを得ないということでしょうか。

早すぎた男 南部陽一郎物語

こちらの本にも興味深い記述がありました。「ひも理論」を着想したときの記述です。


南部がひも理論を考案するきっかけとなったのは、1968年にイタリアのG・ベネチアーノが陽子などの核子の内部で働く強い力を表すために考案した「ベネチアーノの公式」だ。この公式は美しい式だった。それに魅了された南部は、式の背後にどのような物理的な「像(ピクチャー)」があるか想像し、式を自分流に書き直していった。すると南部の脳裏には、これがひもの構造やひもの振動を記述する数式と同じではないか、というアイデアがひらめいた。ベネチアーノの公式からひも理論が湧いて出てきたのだ。


南部博士は1968年にデトロイトのウェイン州立大学で開かれた国際会議で初めて「ひも」という言葉を使ったそうです。これが現代の全ての超弦理論、超対称性理論の源流だというのですから驚くしかありません。

南部博士の世界観に坂田昌一博士の無限階層論が影響したことは間違い無いでしょう。そして、純真無垢な探求心は常に数学的な美しさを求めて、神の摂理を追い求めているのですね。数式を眺めて、それが何を意味しているのか追い求めるのですね。物理法則の不思議を感じ続けているようです。実験で観測されるかどうかに関係なく、「こういう粒子や構造があるはずだ」と考え続けているんですね。次から次へと疑問が湧いてくるのです。

南部博士に限らず、人類のこのような探求心が、電子を発見し、その波動性やスピンも発見し、従来型古典コンピューターを発明するだけでなく、量子もつれ現象を利用した量子コンピューターまで発明しているわけです。さらに、クオークを利用するクオークコンピューターだってそのうちできるかもしれません。

南部博士に「量子コンピューターは実現しますか?」と尋ねたらどんな回答が来るでしょうか。「当たり前でしょう。ひもコンピューターだって出来るかもしれないよ。」と言われるような気が致します。


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