シンギュラリティを乗り越えるためには、「未知の世界」への探求心が大切です。それは素粒子論や宇宙物理学に対する探求心でもあります。これらの分野に興味が無ければ、シンギュラリティの向こう側を知ることはできないでしょう。全方位の探求心が必要です。 この本を読んで驚きました。いま「宇宙革命」が起きていることを御存知でしたか?人類の宇宙に対する認識が大きな転換点を迎えたのです。著者の言葉では次のように表現されています。
『この10年間、宇宙研究の分野では、さまざまな実験を通じて、驚くべきデータが次々と出てきました。そのデータを踏まえて理論も発展し、斬新でユニークなアイデアが数多く生まれています。その結果、それまで私たちが考えていた宇宙像は革命的に変わってしまいました。いま起きている宇宙論の変化は、「天動説」から「地動説」への転換に匹敵するほどのインパクトがあるといっても、決して過言ではありません。』
なんですと!聞き捨てならないお言葉です。そんな大事件が起きていたとは知りませんでした。この本が出版されたのが2010年のことですから、おおむね2000年頃からの10年間でそういう革命的な事が発生したということになります。
それは、具体的に言うと、「宇宙全体の質量=エネルギーのうち我々が知っている物質は4%にすぎず、残りの96%は不明であることに人類が気付いた」、ということです。
なんですと!聞いてないよー。どうしてそんなことが分かっちゃったんですか?分からないということが分かるってどういうこと?
もう少し具体的に見ていきましょう。不明の96%の内訳は、23%の暗黒物質(ダークマター)と、73%の暗黒エネルギー(ダークエネルギー)と呼ばれているのです。それぞれ正体不明のものですが、それが「有る」ということが分かった経緯を書きます。
2001年6月30日に米国NASAによって打ち上げられた、ウィルキンソン・マイクロ波異方性探査機(Wilkinson Microwave Anisotropy Probe: WMAP)が宇宙背景放射を精密測定して、宇宙の組成を詳細に分析した結果が2003年2月11日に発表されたのです。
暗黒物質ダークマターの証拠を最初に提示したのは、アメリカのヴェラ・ルービンさんです。アンドロメダ銀河の回転速度を観測した結果、銀河の回転速度が天体の分布から予測される速度と大きく異なり、周辺部でも中心部と速度がほとんど変わらないことを発見したのです。いわゆる「銀河の回転曲線問題 (galaxy rotation problem)」です。アンドロメダ銀河の見えている星の質量だけでシミュレーションすると中心部に比べて質量の少ない外周部の公転速度が遅くなるはずなのに、観測では中心部とほとんど変わらない公転速度になっていたのです。アンドロメダ銀河の中には、見えている星の他に膨大な量の質量(重力、引力)が存在していないと説明がつかない現象でした。
そしてダークエネルギーです。
宇宙の膨張速度は、星の光をプリズムに通してスペクトル分析したときの赤方偏移(スペクトルが全体的に長波長側にずれるドップラー効果、救急車が遠ざかる時にサイレンが低い周波数で聞こえるのと同じ)で測定することができるのですが、なんと、この赤方偏移が毎年拡大していることが分かってきたのです。それは宇宙の膨張速度が少しずつ増えていることを示します。膨張の加速です。
宇宙の全方位に同じ周波数の電磁波(宇宙背景放射)が観測されるということは、我々自身(太陽系も地球)も含めて宇宙全体がかつて同じ場所にあった(そしてそれが爆発して現在まで拡大し続けている)ことを示すことですが、ビッグバンのエネルギーが最初の爆発エネルギーだけであれば宇宙の拡大速度が加速し続けていることは説明がつきません。宇宙の膨張速度を加速させ続けているエネルギーが宇宙全体に充満していないと説明がつかないのです。それがダークエネルギーと呼ばれる正体不明のエネルギー(斥力、反発力、膨張力)なのです。E=mc^2なので、暗黒物質と暗黒エネルギーは引力と斥力の違いがありますが、大きさを比較することができます。
さて、この暗黒物質や暗黒エネルギーが我々自身の生活と何の関わりがあるのでしょうか。それは大いにあると思います。我々の前には、シンギュラリティ後の生活と同様に分からないことが沢山あり、それを探求し続ける態度が非常に大切になってきます。その探求心を磨く試金石が宇宙論を学ぶことになるからです。宇宙論に興味が無いひとは、シンギュラリティ対策にも興味が持てないでしょう。宇宙論に興味があるひとは、その興味を多方面に向けることにより、シンギュラリティ対策においても他の人々よりも一歩前進できるはずです。宇宙論を学んでシンギュラリティも乗り越えましょう!
※参考書籍
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