高温ガス炉

Screenshot of www.jaea.go.jp

国立原子力研究開発機構のプレスリリースによると、HTTR(高温工学試験研究炉)において原子炉の冷却ができない状態を模擬した試験(Loss Of Forced Cooling, LOFC)が成功したようです。令和4年1月28日(金)、原子炉出力約30%(9MW)において、制御棒による原子炉出力操作を行うことなく、全ての冷却設備を停止し、冷却機能の喪失を模擬した試験を世界で初めて実施しましたが、原子炉が冷却できない状態においても自然に原子炉出力が低下し、燃料温度の異常な上昇等も無く、安定な状態を維持することにより、高温ガス炉の高い固有の安全性を確認しました。

炉心冷却喪失試験は、平成22年12月に実施した「炉心流量喪失試験」(制御棒による原子炉出力操作を行うことなく、炉心を直接冷却する冷却材ヘリウムガスの流量をゼロとし、冷却能力の著しい低下を模擬した試験)の条件に、さらに、原子炉停止後に残留熱を除去するため設けている原子炉圧力容器周りに設置した炉容器冷却設備を同時に停止させ、全ての冷却機能の喪失を模擬した試験です。


なんと驚くようなニュースです。福島第一原子力発電所の事故は、この形式の原子炉では起き得ないことになります。理論上起こり得ないし、実験しても本当に起きなかったというわけです。

従来の沸騰水型原子炉と高温ガス炉の違いを復習してみましょう。

軽水炉高温ガス炉 HTTR炉進行波炉 Traveling Wave Reactors: TWR炉4S炉(小型ナトリウム冷却高速炉)ナトリウム冷却高速炉SFR炉
燃料低濃縮ウラン235
二酸化ウラン劣化ウラン238(天然ウラン)ウラン・ジルコニウム合金MOX燃料(BN800)
炉心出力温度300℃950℃500℃程度か500℃程度か547℃(BN800)
減速材普通の水黒鉛グラファイト
なし(高速炉)なし(高速炉)なし(高速炉)
冷却材普通の水ヘリウムガス液体ナトリウム液体ナトリウム液体ナトリウム(BN800はプール型原子炉)
燃料交換間隔5年前後
数十年以上60年(無交換)30年(無交換)半年(BN800)
全電源喪失時のメルトダウン可能性あり

理論上なし理論上なし理論上なし可能性あり
熱出力の例300万KW(商用炉)20万KW(実証炉)60万KW(設計段階)1万KW(設計段階)210万KW(BN800)
備考シェア8割、他に重水炉と黒鉛炉が合計2割。水の分解で発生した水素が水素爆発を起こし得る。チェルノブイリの黒鉛火災は思い出されるが、水冷却ではないのでボイド係数なし。水素製造可能。2022年1月、JAEAが全電源喪失実験成功。2023年12月、中国の石島湾原子力発電所1号機が商業運転開始。ビルゲイツがテラパワー社に出資。東芝と共同研究している。炉心1m以下、小型の原子炉が中性子を漏らしやすいという特徴を逆手に取った安全設計。中性子反射板を移動させて臨界を維持する。ロシアのBN800は電気出力23.5万KWで2015年12月から商用運転しているとされる。日本で停止中の「もんじゅ」と同形式。

HTTR炉の一時冷却系ヘリウムガスは約1000℃の温度を取り出すことができ、化学的に安定で、中性子に曝されても放射化せず、さらに高温を利用して化石燃料を使わずに(二酸化炭素を排出せずに)水から水素を発生させることもできる、という特性をもっているとのことです。

Screenshot of httr.jaea.go.jp

次世代原子炉の情報を調べているうちに、進行波炉や4S炉などの計画も素晴らしいと思いましたが、一番驚いたのは日本で頓挫している「もんじゅ型」の高速増殖炉がロシアでは既に商用運転しているということでした。BN-800というナトリウム冷却の高速増殖炉が23万KWの電気出力で2015年から「商用」運転を開始しちゃってるんですね。日本では福島原子力発電所の事故で大騒ぎになっており、それどころではありませんでしたが、ロシアでは積極的に進めていたのです。しかもBN-1200という熱出力2,900MW(290万kW)、電気出力1,220MW(122万KW)の完全商用サイズの高速増殖炉まで建設中で2025年着工予定とされているのです。日本の「もんじゅ」がナトリウム漏れ事故でメタメタにやられている間に、ロシアでは1次冷却系を全部ナトリウムプールに入れてしまうプール型原子炉で実用化に成功しているというのです。

Screenshot of rosatom.ru

ビルゲイツが設立したテラパワー社の実験炉も米国ワイオミング州の石炭火力発電所跡地にナトリウム炉を建設すると発表しています。

Screenshot of www.terrapower.com

日本も高温ガス炉でどんどん実用化を急ぐべきでしょう。JAEAによるHTTR炉の全電源喪失試験は、実験炉の出力を定格まで上げて再度行うことが予定されています。この技術も、知らぬ間に完成されていくのでしょう。次世代原子炉技術は常にウォッチしていくべき対象です。エネルギー革命は我々自身の生活に影響するからです。この第四世代と言われる原子炉は、核融合炉とは違い、すでに実用化している原子炉を改良した現実の技術なのです。

石島湾原子力発電所

Screenshot of ja.wikipedia.org

2023年12月から、中国の高温ガス炉の実証炉である石島湾原子力発電所一号機(20万KW)が商業運転を開始しています。第四世代原子炉の実用化段階が始まっています。日本でも実証炉の主幹事企業に三菱重工が選定され、実証炉のプロジェクトが進行しています。ちなみに軽水炉の商業炉の出力は110万KW程度となっています。

※おまけ

米国エネルギー省による核分裂原子炉の世代分類(あまり本質的な分類ではない)

第1世代・・・本格的な商業利用以前の1950年代から60年代に作られた発電用原子炉の実証炉や早期原型炉。日本では動力試験炉JPDRが運用された。熱出力は 4.5万 kW (電気出力 1.25万 kW)で、1963年から1976年まで運用された。運用終了済み。

第2世代・・・1970年代から1990年代に設計された実用炉。減速材は軽水や重水や黒鉛が使われ、冷却材は軽水や重水や炭酸ガスが使われる。

第3世代・・・1990年代以降に設計された第2世代の改良版。基本的な構造は同じだが、主な改良要素は「圧力容器内に循環ポンプを内蔵化」、「制御棒駆動力の多重化」、「格納容器の鉄筋コンクリート一体化」、「受動的な緊急炉心冷却システムECCS」などである。

第4世代・・・21世紀に開発中の原子炉。従来の減速炉に加えて、核分裂により生成する中性子を減速させずに利用する高速炉も模索されている。加速器駆動未臨界炉などの完全に新方式の核分裂炉も模索されている。冷却材は、高温ガス炉でヘリウム、溶融塩炉で4フッ化ウランなどの溶融塩が使われ、超臨界水、ナトリウムや鉛や鉛ビスマス合金などの液体金属の利用も模索されている。


投稿日

カテゴリー:

投稿者:

タグ:

コメント

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です