小林雅一さんの「ゲノム編集とは何か「DNAのメス」クリスパーの衝撃 (講談社現代新書)」を読みまして(読んだときの記事はこちら)、次に「ゲノム編集からはじまる新世界(朝日新聞出版)」を読んだのですね。講談社現代新書は2016年8月出版で、朝日新聞出版は2018年3月の出版です。本の方向性も若干異なりますので両方読むと良いと思います。
特に、この本の第2章「クリスパーを発明したのは誰なのか?」を読みますと、クリスパー特許裁判の判決理由がよく分かります。目からウロコです!
ダウドナ&シャルパンティエ博士の研究は、試験管の中にクラゲDNAと、Cas9タンパク質(DNAを切断する制限酵素)とガイドRNAを入れて、クラゲのDNAを切断するという報告でしたが、ジャーン博士の研究は、ガイドRNAとCas9タンパク質の「遺伝子」を「プラスミド」と呼ばれる環状DNAに組み込んで生体内に注入して核内で制限酵素タンパク質を発現させるという手法でした。
生体の核内にタンパク質を直接注入することはできませんから、ジャーン博士の手法は画期的な発明です。これは完全な門外漢の一般素人でも「こりゃあ全然別の発明だな!」と感じられると思います。生体の遺伝子編集はジャーン博士の方法を使わないとできないんだな!と思いました。まあ、制限酵素がDNAを切っていることは同じなんですけどね。
この本を読むまで、なんで一番最初に論文発表したダウドナ&シャルパンティエよりもジャーン博士(チャン博士)の特許が認められたのか分からなかったのですが、この説明を読んで意味が分かりました。特許はアイデアを保護するものではなく、アイデアを実現する技術方法を保護するものと言われますが、まさにジャーン博士の技法はCas9を実際に生体で活用するための発明なんですね。遺伝子を編集するというアイデアであれば、ウイルスを使った1972年のポールバーグ博士の研究が先駆者となっていますし、制限酵素を使う遺伝子編集であれば、第一世代ジンクフィンガーヌクレアーゼZFNや第二世代TALENといった遺伝子編集技術も着々と研究が積み重ねられてきました。クリスパーCas9はその精度とスピードを飛躍的に上げてしまったというだけでもあるわけです。
ここら辺の事情は、青色LEDの赤崎天野教授と中村教授の関係にちょっと近いかも知れませんね。はっきり言って、どちらの貢献が欠けても人類への大きな利益は成し遂げられなかったという訳です。
この本には、ジャーン博士と同じ米国ブロード研究所のデビッド・リュー博士らの研究グループが、クリスパーの操作精度を極限まで高めた「ベース・エディティング base editing 」という手法を開発し、2017年10月に英国ネイチャー誌に発表したと紹介されています。これは何と塩基配列の1文字単位で遺伝子編集を可能にする技術だそうです!目がテンになりました!
※ベースエディティングの発表論文
https://www.nature.com/articles/nature24644
シンギュラリティの提唱者レイ・カーツワイルさんは、ジェネティクス(G)、ナノテクノロジー(N)、ロボティクス(R)、つまりG・N・Rという3つの分野が、これから人類の革新をもたらす主要分野であるとおっしゃっています。ジェネティックスは遺伝子工学ですから、まさにこの遺伝子編集のことなのですね!ロボティクスの中には人工知能も含まれるようです。子供達は、これから、GNRの3つのうちのどれかを目指して走っていくと良いのかもしれません。大人達は、この3つの分野に自分の金融資産を投資というか、「預ける」と良いのかもしれません。オールドエコノミーはダメですよということなんですね!恐ろしいことに、オールドエコノミーの定義が毎日変わっていくんですね。最先端だと思っていたものがそうではなくなる。まさに生き馬の目を抜く世の中です!