マーク・ボイル著、吉田奈緒子訳、紀伊國屋書店
アイルランド生まれで、大学で経済学を学んだ著者が、オーガニック食品業界を経て、食品廃棄や環境破壊や飢餓の問題に疑問を持ち、大学の時に読んだマハトマガンジーの「世界を変えたければ、まず自分がその変化になりなさい」という言葉に触発されて、1年間の無銭生活を宣言し実践した体験記の本です。2008年11月29日世界無買デーから1年間です。奇しくも2008年9月15日リーマンショック世界金融危機の直後からの1年間でした。世界無買デーというのは、年に1度、本当に必要なもの以外は買わずに過ごして消費が人間社会や自然環境に与える影響を考えようという運動で、1992年にカナダで始まった活動だそうです。
住居・・・フリーサイクルのサイトで、無償で中古のトレーラーハウスを入手。
トイレ・・・コンポストトイレ→自家栽培肥料。
風呂・・・太陽光で暖めた水を流すソーラーシャワーを約千円で事前購入。
エネルギー・・・太陽光発電と薪割り。
食糧・・・採集、栽培、廃品回収(賞味期限切れ廃棄食品のスキッピング、ゴミ箱あさり)。
交通・・・自転車と、ヒッチハイクと、徒歩。
PC・・・フリーサイクルで部品を集めてLinuxをインストール。
通信・・・手伝ってる農場の電話とwifiを無償借用。
興味深い話ですが、サバイバル生活、ミニマリストという分野で、一定の人口が存在します。日本では毎年寝太郎さん(高村友也さん)、ドイツではハイデマリーシュヴェルマーさん、アメリカのダニエルスエロさんが有名です。お金を節約するという話は良くあるのですが、完全にお金を絶つというのは凄いですね。しかも、1年間の無銭生活を宣言して、前夜祭と完成記念で2回も盛大な無銭パーティーを開いちゃうのです。明るくて社交的な人物です。
基本的な考え方は「ペイフォワードの法則」「贈与経済(ギフトエコノミー)」ということです。無条件に与え、無条件に受け取る、ということで、対価関係は無いのだそうです。「与えては受け、受けては与える、有機的な流れだ。この魔法のダンスに、地球全体の生態系は基づいている。」対価関係が残っているシェアリングエコノミーとも違いますね。ちょっとこれは原始共産主義とも違う、理想的な社会を夢想しているようにも思えました。実際、この著者は実験当時29歳、結婚も子育てもしていないのです。青年の一時の冒険旅行みたいな雰囲気もありました。1年間の実験の後どうなったか、訳者あとがきに記載ありますのでお読み下さい。
それでもまあ、これからのベーシックインカム時代に向けて参考になる部分もあると思いました。これからますます極端な格差社会が進行して、ほとんどの市民は現在のような収入が得られなくなった場合に、百円ショップなどを活用して力強く生き抜いていくことになりますが、自給自足のサバイバル的な側面も出てくると思います。生産性革命+サバイバルというわけです。突き詰めていくと、本当に必要なお金の額はどんどん下がっていくのでしょう。
お金を1円も使わないということは、お金が1円も要らないということであり、お金が必要な億万長者よりも、お金に困っていない状態になってしまいます。お金が要らないということは、無限の億万長者と同じことになるのです。
Kingcampソーラーシャワー(黒い袋なので日光に当てると吸熱する)
※参考記事
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