ハインリヒ・ベル短編集より「商売は商売」

青木順三編訳、ハインリヒ・ベル短篇集

ノーベル文学賞作家、ドイツのハインリヒ・ベルをご存知ですか?

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週刊エコノミスト2017年5月2日・9日合併号の記事で知って、文庫も読んでみたら、そこに載っていた「商売は商売」という短編に引き込まれてしまいました。引用します。

「最悪なのは、私に定職がないことだ。今日では、何しろ定職を持たなければいけない。みんながそう言っている。あの頃はみんな、そんな必要はない、今必要なのは兵隊だけだ、と言っていた。ところが今は、誰でも定職を持たなければいけない、と言う。藪から棒に突然そう言い出した。」

つまり、戦争に従軍したときは兵役に振り回され、戦争が終わったら今度は定職に就きなさいという社会の要求に振り回されているという嘆息なのです。ベルの知性から見れば「戦争なんて全然終わってないじゃないか」ということなのです。もちろん、続いている戦争は「経済戦争」です。これは1950年の小説ですが、21世紀の現代においても、ミニマリストまで行かないとしても立ち止まって考えてみる、現代社会の競争から一歩引いて考えるという態度は有効でしょう。子供は受験戦争、大学生は就職戦線、社会人は保育園獲得競争・出世競争、高齢者は名医獲得競争・老人施設獲得競争、いつも競争続きの人生で大変ですね。ベルの提示するヒントは、「社会の趨勢とは距離を置き、自分の頭で考えてみろ、幸福とは何だ?」ということになるのでしょうか。

※ハインリヒ・ベル「労働者の倫理を引き下げるための物語」抄訳を含む週刊エコノミスト電子書籍


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