ギグ・エコノミーの時代

ジェームズブラッドワース、濱野大道訳、「アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した」(原題 HIRED )

これは地球の反対側の著者が未知の体験をレポートしてくれる書籍ですので、読み応えのある内容でした。ギグ・エコノミーというのは、フリーランスの単発の仕事=ギグに頼る経済という意味です。シェアリングエコノミーの一形態と言えます。原題のHIREDというのは「雇われ」という意味で「潜入して実際に雇われましたよ」という趣旨でしょうか。

この本を読みますと21世紀イギリス社会の雰囲気がビリビリ伝わって来ます。なぜ2016年6月の国民投票でEU離脱ブレグジットが過半数を占めたのか良く理解できるようになるでしょう。管理人が感じたポイントを列挙します。

(1)イギリスでは「ゼロ時間契約 zero-hour contract」という週あたりの労働時間が決まっていない雇用契約が認められており、社会問題化しているが近年その割合が増え続けている。具体的な契約条項は「仕事を提供できない期間が発生した場合においても、雇用主はあなたに仕事および賃金を与える義務を負わない」というものである。

(2)アマゾンの倉庫で荷物をピッキングする作業員には、懲罰ポイント制が適用されており、遅刻したり休んだりピッキングが目標を下回ると加算され、6ポイントでリリース=解雇される。

(3)アマゾンの倉庫では手首に巻かれた歩数計も管理されており、著者は1日平均16キロを歩いていた計算であった。

(4)21世紀のイギリスの中産階級がアマゾンでクリックして注文するときに倉庫のルーマニア人が過酷な労働を強いられていることに気付かないのは、19世紀インドの搾取工場の状況に6000キロ離れたイギリス市民が眼を背けたのと同じである。

(5)イギリスの訪問介護現場では、仕事を減らす為に「今日は買い物は必要ありませんよね?」「おなかは空いてませんよね?」「尿パッドを替える必要はありませんよね?」というような誘導尋問の質問が横行していた。

(6)イギリスの訪問介護現場では、外国人労働者の増加や、介護担当者が仕事を急ぐあまり、投薬管理記録が空欄のままになっていることがあり、二重投薬(過誤投薬)による薬物中毒の恐れが高い事例が発生していた。

(7)イギリスで伝統的な小売りチェーン「ウールワース」が2009年に倒産したが、これはリーマンショックによりディスカウントストア(99ペンスストアなど)が台頭したことが原因であった。

(8)イギリスの低所得家庭ではテレビなどの家財道具も、購入選択権つきレンタル店を利用して調達しているが、結局は正当な価格の倍以上を払わされている結果になる(日本の車用残価設定ローンに似たものか)。

(9)イギリスのコールセンターの職場では「心を落ち着けてワインを飲もう」「夢見て、生きて、愛そう」「愛があれば大丈夫」など思考を停止させるカンフル剤のような言葉が書かれた小物が置かれていた。

(10)イギリスのコールセンターのトレーナーは中間管理職として、オペレーターを「ビッグブラザーのような眼で」ずっと監視していた。管理社会を描いたジョージオーウェルの1984の世界が一部現実化していた。

(11)イギリスではAIの進展に伴い「ポストワークの世界」「仕事のない世界」がメディアで取り上げられるようになったが、1980年代以降の石炭産業の衰退はこの先駆けと言える出来事であった。

(12)19世紀には炭鉱夫たちの給料は現金ではなく、採掘会社が運営する「トラックショップ」でしか使えないクーポンで支払われていた。そしてそれらの店では地元の店よりもずっと高い値段で商品が売られていた。(管理人は、佐倉の歴史民俗博物館で日本の炭鉱でも同じような商品券が配布されていたのを見たことがあります。)

(13)生産性至上主義をつきつめていくと、社会学者マイケル・ヤングが提示した「メリトクラシー」というディストピア(暗黒郷)に至る可能性がある。

(14)サウスウェールズの元炭鉱夫は、1973年にイギリスがEUに加盟してから、「すべてが下り坂になった」と考えている。

(15)ギグエコノミーで個別化された仕事において、国家(政治家)よりも市場が仕事の配分を決めるのであり、古い産業にあった連帯感や尊厳は失われ、社会の分断が拡大し「ポスト真実」の政治的混乱が増長することになる。

(16)2016年8月のロンドンの平均住宅価格は48万9000ポンドで、市民の平均年収のおよそ13.5倍となった。

(17)ギグ・エコノミーの拡大は、2008年世界金融危機後に始まった。イギリスの自営業者は、2008年に380万人だったが、2016年には470万人に増えた。

(18)ウーバーの配車アプリを使えば、利用者は周りに車が一切見えない時でもタクシーを呼び止めることができる。これがウーバー拡大の原動力のひとつである。

(19)ギグ・エコノミーは、働き手には仕事の柔軟性を提供し、顧客には車や部屋を提供する手段を与え、洗濯物サービス、レストラン宅配、荷物の持ち帰りなど、無限の可能性を提供し、サービス価格の低下ももたらしている。

(20)ウーバーのドライバーは、乗車リクエストの80パーセントを受け入れなければアカウントステータスを保持できない(次の仕事が回されない)と通知される。乗車拒否により、アプリの停止や強制ログアウトになることもある。

(21)ウーバーの運転手がイギリスの雇用裁判所に労働者の権利を求めて提訴した事件の判決では、裁判所は「ドライバーはそもそも乗客と交渉しないし、することもできない・・・彼らはウーバー側の条件に厳密にしたがい、与えられた仕事を受け入れているだけである」として有給休暇などの権利を与える判断を下した。

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この本で語られる現在のイギリス社会の状況は、労働者派遣法の改正や、入管法改正で単純労働の拡大を決めるなど、労働市場の開放を進めている日本の近未来を描写しているようにも見えます。日本でも「外国人労働者」と「ゼロ時間契約」が社会の分断を促進するかもしれません。「メリトクラシー」や「ポスト真実の政治」が現実化するかもしれないのです。21世紀の子供達が大人になる頃、日本社会は大きく変化している可能性が高いのです。だから21世紀の中高生や大学生は読むべきです、この本を!これを読めるようになるために、日々の勉強を怠ってはいけません。

※参考書籍(ギグエコノミーではありませんが、潜入ルポという手法は同じです。)

横田増生、ユニクロ潜入一年

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