NGS次世代シーケンサー

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21世紀のバイオ革命のエンジンは2つあります。ひとつはクリスパーキャス9酵素=遺伝子編集技術ですが、もうひとつはNGS次世代シーケンサーです。シーケンスは処理手順という意味ですから、直訳すると次世代処理手順という意味のわからない事にになってしまいますが、21世紀の子供達はこの意味をしっかり理解しておくべきです。

NGSを理解するためのキーワードは、PCR、サンガー法、ショットガン法、そしてMPSです。

PCR・・・ポリメラーゼ連鎖反応(ポリメラーゼれんさはんのう、 polymerase chain reaction)。試験管の中でDNAを増やす方法です。DNAポリメラーゼという酵素により、1本鎖のDNAに対応する(相補的)DNAを連結していく反応を繰り返します。DNAを94℃まで熱すると2本鎖が分離して1本鎖になります。次にDNAを60℃まで冷却するとDNAポリメラーゼにより1本鎖に相補的な塩基(ATGC)が連結されていきます。このサイクルを繰り返すことにより、DNAの量を2倍ずつに増やすことができます。試験管の中に予め増やしたいDNAの断片(プライマー、20塩基程度のヌクレオチド)を入れておくことにより、特定のDNAだけを増やすことができます。検出したいウイルスの断片をプライマーにすれば、当該ウイルスのDNAを増幅することができ。ウイルス感染の有無をチェックできます。RNAウイルスの場合は、逆転写酵素を用いて相補的DNA(cDNA)を作成し、これを増幅して検査します。

サンガー法・・・フレデリック・サンガーが開発したDNA塩基配列の確定方法。DNAポリメラーゼでDNAの複製を行う場合に、OH器を欠損して結合能力を失ったヌクレオチド(鎖停止ヌクレオチド、ターミネーター)を遊離塩基に混合させることによりDNAの成長が止まり、複製されたDNAの長さが1塩基ずつ異なる1本鎖DNAが得られるので、これを電気泳動法により質量順に並べ替えて、ATGC4種類の鎖停止ヌクレオチドに付着させた蛍光色素を読み取ることにより、1塩基ずつ区別することができます。最大1000ヌクレオチド程度の塩基配列を読み取ることができます。電気泳動法は、遠心分離機ガスクロマトグラフィーと似た質量分析方法ですね。

ショットガン法・・・Shotgun sequencing 法は、事前にDNAを制限酵素(DNAを切断する酵素)で数百塩基対ごとに切断しておき、バラバラにそれぞれ配列を読み取り、バラバラの情報のままコンピューターの記憶装置に保存し、配列が同じ部分の重なり合いを調べることにより、DNA情報をコンピューターで繋ぎ合わせていって、1本のDNA情報全体を得る手法です。ヒトゲノム計画の時には、ヒトゲノムのcDNAを用いたショットガン法により、解読スピードが飛躍的に向上しました。NGSでもショットガン法が使われています。どうしてショットガンと言うのが分かりませんが、遺伝子がショットガンで撃たれてバラバラになったイメージでしょうか。

MPS・・・大規模並列シーケンス法Massive_parallel_sequencing は、スライドガラスの上にDNAを伸長させていきますが、このとき、ヌクレオチドのOH器を化学的にブロックしておき次の塩基を伸長できないようにして(可逆的ターミネーター法)、1塩基ずつ伸長させます。1塩基ずつ蛍光画像を撮影し、OH器のブロックを除去し、次の塩基を伸長させます。これを繰り返して、各DNAを1塩基ずつ読み取っていきます。この超並列読み取りは、同時に4千万個以上のDNAで行われます。サンガー法の電気泳動では1回に1本のDNAしか分析できませんでしたから、驚くべき効率の違いです。1990年代に特許申請され、2005年頃からNGSが市販されています。人類はものすごい武器を手に入れたのです。

※最大手イルミナ社の解説動画(日本語字幕で見て下さい)

※最大手イルミナ社の解説マンガ

https://jp.illumina.com/destination/comic/love-genome.html

2000年頃にヒトゲノム計画が30億ドル掛かって遂行されましたが、現在では約1000ドルで同じ解析ができるようになったそうです。何と300万分の1の費用です。このバイオ革命により、新型コロナウイルスのPCR検査が2日でできるようになりました。例えば20年前の研究者に「2020年には新型コロナウイルスが流行したが、毎日10万件以上のPCR検査をやって抑え込みに成功した」という話をしたら、「有り得ない話をするな!」と怒られたはずです。バイオテクノロジーのあらゆる分野で研究開発が加速しています。NGSが登場してまだ15年ほどしか経っていません。今後、我々の生活に驚くべき変化をもたらすことでしょう。

※参考書籍

田村隆明、基礎から学ぶ遺伝子工学


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