東証に上場しているインフラファンドのいくつかに投資して、半年ごとの「資産運用報告書」を頂いておりますが、これを見て心配になりました。
太陽光発電所の買い取り価格が、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT制度)により、1KWhあたり40円とか36円とか32円が中心になっていたからです。
電力卸売り価格の相場は、夜中だと1KWhあたり4円程度ですし、日中でも1KWhあたり8円程度に過ぎません。単純に考えて、卒FITによりインフラファンドの収入が1KWhあたり32円から8円に下がれば4分の1になってしまいます。配当利回りが4パーセントから1パーセントに下がってしまうかもしれないというお話です。
しかしご安心下さい、FITの後には、FIPという制度が検討されています。
※資源エネルギー庁2020年2月総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会再生可能エネルギー主力電源化制度改革小委員会中間取りまとめ
上記リンクより引用---
FIP 制度は、発電した電気を卸電力取引市場や相対取引で自由に売電させ、そこで得られる市場売電収入に、「あらかじめ定める売電収入の基準となる価格(基準価格(以下「FIP 価格」という。))と市場価格に基づく価格(参照価格)の差額(=プレミアム)×売電量」の金額を上乗せして交付することで、発電事業者が市場での売電収入に加えてプレミアムによる収入を得ることにより投資インセンティブを確保する仕組みである。FIP 制度により発現する効果は、FIP 価格が固定であるため参照価格の変更頻度により変わってくる。具体的には、参照価格を、市場で取引される時間単位(30 分単位)で変更する場合(=完全変動型プレミアム)、プレミアムの額も随時変更されるため収入の安定性が高くなり投資インセンティブは強く確保されるものの、市場価格を意識した行動を促しにくくなる。一方、参照価格を、長期間変更しない場合(=固定型プレミアム)、市場変動にかかわらずプレミアムの額は固定され
るため収入が予測しにくくなり投資回収の予見性は下がるが、市場価格が高い時間帯に売電を行うインセンティブが働くため市場価格を意識した発電行動を促すことができる。したがって、投資インセンティブの確保と市場価格を意識した発電行動の両立を目指すためには、収
入の安定性を高め投資回収の予見性を強く確保するという完全変動型プレミアムのメリットと、市場価格の変動に応じた収入変動により再エネ発電事業者に対して市場を意識した行動を促すという固定型プレミアムのメリットの、双方を取り入れる中間型の制度を構築していくことが適当である。
※資源エネルギー庁2020年8月FIP制度の詳細設計とアグリゲーションビジネスの更なる活性化
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/019_01_00.pdf
※資源エネルギー庁2020年6月エネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスに関するガイドライン
https://www.meti.go.jp/press/2020/06/20200601001/20200601001-1.pdf
FIPは電力卸売り売買の際に補助金をつける仕組みですが、これと、電力アグリゲーションビジネスは一体化された制度になるようです。
上記リンクより引用---
従来の電力システムでは、電力需要を所与のものとして、電力系統側で集中的に電力の需給バランスを調整してきた。しかしながら、太陽光発電等の再生可能エネルギーや蓄電池等の需要家側エネルギーリソースが普及拡大したことに加え、IoTの発展による統合制御技術の発展等により、電力システムを取り巻く環境は変化している。
これにより、需要家側エネルギーリソース(以下、「DSR」という。)や分散型エネルギーリソース(以下、「DER」という。)を活用し、従来の電力消費量を削減する省エネだけでなく、電力供給状況に応じてスマートに需要パターンを変化させること、いわゆるディマンドリスポンス(以下、「DR」という。)、バーチャルパワープラント(以下、「VPP」という。)
及びこれらを活用した取り組みであるエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネス(以下、「ERAB」という。)への注目が高まっている。
需要パターンの変化には「需要抑制」と「需要創出」の2通りが考えられる。前者は、効果的にピークカットを行うことで需給ひっ迫の解消に寄与するとともに、非効率な火力発電の焚き増しや維持、及びピーク電源の新設等が不要になることで、中長期的には安定供給を実現しつつ、発電容量を合理化することにつながると期待されている。後者は、再生可能エネルギーの導入拡大に伴い電力が供給過多に陥った際に、需要家に対し電力の消費増加を促すこと等により、再生可能エネルギーを有効活用しつつ需給調整等の電気の品質安定化に資するものとしての活用が考えられている。
agrigation というのは「集約」という意味で、電力の創出や抑制を集約=取り纏めて、電力会社に売るビジネスのようです。消費抑制は「ネガワット取引」と呼ばれ、発電するのも、電力使用抑制するのも同じ効力があるという考え方ですね。工場を11時から15時まで止めるとか、ビルの空調を11時から15時まで止めるというような約束が「ネガワット取引」になるでしょう。バーチャルパワープラントVPPというのも興味深いものです。個人宅の小規模太陽光発電パネルを集約して、ひとつの巨大な発電所として、電力会社に売電するイメージでしょうか。
ちょっとまだFIPの制度設計が決まっておらず、FIPの加算されるプレミアム価格も不明なのですが、現在徴収されている「再エネ賦課金」が廃止されることは無いでしょうから、これをベースに試算することは可能です。ものすごく大ざっぱな計算であることをご理解下さい。
(1)2020年9月現在の再エネ賦課金=1KWhあたり2.98円
(2)2017年現在の再生エネルギー発電比率16.1%
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/renewable/outline/index.html
持続可能性を考えて保守的な数値で試算します。再生可能エネルギーを25パーセント、その他エネルギーを75パーセントとして、75パーセントの電力から1KWhあたり3円の賦課金を徴収し25パーセントの再生可能エネルギーに配布すると仮定すると、75÷25×3=9円、ということで、様々な変動要因はありますが、現在の賦課金でも9円程度の上乗せは可能ということになります。昼間の電力卸売り価格を8円とすると17円となり、2020年のFIT買取価格12円+税を大幅に超えることになります。1KWhあたり3円の賦課金を前提とするかぎり、現行FITの12円以上、17円程度の買い取り価格は持続可能ということですね。現在の36円とか32円に比べると半額程度には下がる可能性はありますが、それ以上は「下がりにくい」ということが言えるでしょう。
※資源エネルギー庁、FIT買取価格
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/fit_kakaku.html
※環境省、諸外国における再生可能エネルギーの政策動向
https://www.env.go.jp/earth/report/h30-01/mat01-2.pdf
こちらで紹介されている外国の補助水準を見ると、EEG2017のFIP支援水準は、2018 年 1 月時点で、750kW 以下の地上設置型が 8.84ct/kWhということです。1ユーロ120円とすると、8.84セントは10.6円となります。1KWhあたり10円の支援なんですね。上記9円の補助試算と近縁する数値です。
ということで、当サイトの見解となりますが、SDGsの持続可能性を考慮した場合、利回りは半減する恐れがありますが、インフラファンドは今後も投資対象として選択肢になりえると思われます。この「半減」という数値、現物不動産や、現物株式、はたまた現物資源商品に比較しても悪くない数値かもしれません。生産性革命であらゆるモノの価格が低下する中で、半額で収まるなら悪くない選択かもしれないのです。
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