明治時代に簡易生活の追求が流行していたのを御存知でしょうか。明治維新で旧来の煩わしいしきたりや決まり事を撤廃し、新しい時代の新しい生活はどんなものか、欧米からの自然思想の流入もあって、「簡易生活」なる雑誌まで刊行されて人々が追求していたというのです。それが、大正から昭和初期まで続いていたというから驚きます。
欧米の自然思想は、フランス革命、アメリカ独立戦争などの市民革命を引き起こした自然権思想、「自然にかえれ」というジャン＝ジャック・ルソーの思想ですね。アメリカではソローの「森の生活」が刊行され、イギリスのギッシングは「ヘンリ・ライクロフトの私記」を著しました。フランス人牧師シャルル・ワグネルの「The Simple Life」はアメリカでミリオンセラーとなり、日本でも翻訳され人気を博したと言います。正直かつ誠実に、そして簡素に生きていこうという内容です。
森の生活
市民革命を学べ
管理人の読解を示しますので各自読んでみてください。
序章、日々を良くする明治の簡易生活
明治維新後の、人々の「知りたい、新しいものを取り入れたい、改善したい、合理的に行こうといった気運」が簡易生活の流行の根底にある。簡易生活を究極まで要約すると、「実用が全て」、「簡易で簡素」、「余計は排除」の３点ということになる。
第一章、明治の始める方法・失敗する方法
具体的に簡易生活を実現していくために、人々は様々な試行錯誤を行った。方法論として「始める方法」と「失敗する方法」が様々考案された。「仕事とは別に一日一時間「何か」をせよ」というものや、「始めさえすればよい」、「失敗してもとらわれない」、「改善すればいい」という考え方があった。小さい部屋に引っ越して２か月でまた別のところに引っ越した事例もあった。
第二章、簡易生活は超合理的に考える
物は減らすべきだが、無理やり減らすのは時間の無駄になる。簡易生活では、科学技術と工夫で家事を究極的に効率化させる。「台所廃止論」まで主張された。科学的に考えて、迷信を打破しようとした。
第三章、平民主義で能力が開花する
簡易生活を実現する方策として平民主義も主張された。地位や身分によらず気軽に行動し、みなを平等にとりあつかうというものだ。家庭では妻の呼び方の工夫が考案された。呼び捨てから、サンづけの提案がされた。それは当時の人々にとって一大決心であった。
第四章、疲れる人間関係を断ち切る作法
来客の対応を簡易化するために、玄関不要論というものがあった。広い玄関を物置などに活用して簡易な生活を送ろうとするものである。「来客に対する茶菓及び食事の廃止」、「形式的贈答品の廃棄」、「無用のお世辞の禁止」などが主張された。人間関係のトラブルを回避するために、「後ろめたいことをしない」ということも大事である。「嫌なことは断る」ことを実践していた。
第五章、簡易なくらしを追求してみる
「衣類は寒暑を防ぐためにある」、「食物は空腹を満たすためにある」、「家屋は風雨を防ぐためにある」と考えて衣食住を改善する。虚飾は排すべきだが、愛すべき装飾は追求すべきだ。高価な芸術品だけに美しさを見出すのではなく、職人たちの手仕事による日用品にも美がやどっていると提唱する民芸運動もあった。美しく有用であるものだけを家に置く考え方だった。第一次大戦の影響で物価が高騰し米騒動があり窮民を救済するために公営民営の簡易食堂が運営された。１２銭（現代で３８０円程度）の定食が提供されていた。更に一日十銭生活を提唱する者も居た。
第六章、簡易生活的趣味の方法
簡易生活は無駄を排し、趣味に没頭する人生を推奨していた。職業を趣味にしてしまえば効率が良い。生活の改善自体を趣味にするのも良い。趣味はメモで記録すると良い。日露戦争中に花を育てる反戦運動をした者も居た。
最終章、簡易生活とこれから
昭和に入ると「自分らしさ」という言葉も誕生した。「戦争よりは平和の方が簡易である」という主張をした者も居た。簡易生活の運動は廃れたが、虚礼廃止などの残光は至るところに残っている。簡易生活の実践は無限であり、続けることが必要だ。
素晴らしいものです。「霊肉統一簡易生活」の著者桑原真瑞の言葉を引用します。
宇宙の勢力無限なれば、人の勢力また無限なるべし、宇宙の心が永遠無窮なれば、人の心もまた永遠無窮なるべし。されば思えよ。宇宙と共に活動努力するものは真に幸福なるものなりと。
明治時代にこんなにもストレスフリーな生き方を追求していた人々が居たとは驚きです。まさに温故知新です。学んで真似るべきでしょう。現代風に言えば「断捨離」や「清貧の思想」でしょうか。生活をシンプルにして心も軽くするというのは、昔から繰り返された運動だったのです。焼き直しでも何でも、とにかくストレスを軽くする楽しい生活にシフトしていかねばなりません。
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