エネルギー価格は我々の生活スタイルを決めてしまいます。
核融合発電は水素原子2個に高エネルギーを投入することによりヘリウムに変わる核融合反応を起こした時に放出されるエネルギーを利用しようとする試みです。
DD反応(重水素2個の核融合)
$$D + D \to T(1.01MeV) + {\it{p}}(3.03MeV)$$
$$D + D \to {}^{3}He(0.82MeV) + {\it{n}}(2.45MeV)$$
DT反応(重水素と三重水素の核融合)
$$D + T \to {}^{4}He(3.52MeV) + {\it{n}} \ (14.06MeV)$$
pB11反応(陽子=水素原子核とホウ素11の核融合)
$${\it{p}} + {}^{11}B \to 3^{4}He + 8.68MeV$$
太陽も含めた恒星内部では核融合反応が起こっており、地球上の生命が太陽光からエネルギーを受けて生活をしているのは核融合エネルギーを利用して生活しているわけです。
太陽光エネルギー→植物の光合成→草食動物→人間、という順番で人間も結局太陽の核融合エネルギーで生活しています。
その核融合エネルギーを人工的に地球上で発生させて、「地上の太陽」として人類の生活に役立てようとする研究が続けられています。それは20世紀には「当面実現不可能な無謀な試み、税金の無駄遣い」と見られていたのですが、21世紀に入って急激に進展しています。20世紀の人類による核融合エネルギー利用は水素爆弾に限られていましたが、21世紀には、実験的な核融合炉で、人為的にコントロールされた核融合反応を起こして、投入エネルギーと発生エネルギーの比較をするところまで進展しています。持続性や発電利用は別として、人類は既に核融合を実現しています。
核融合炉には、大きく分けて3種類の方法が模索されています。燃料のプラズマ(水素原子核と電子が分離した高エネルギー状態)を超電導磁石の磁場により保持する「磁場閉じ込め方式」と、慣性力で空間上の保持された燃料に高出力レーザー光を照射する「慣性閉じ込め方式」と、粒子加速器による「衝突ビーム方式」です。
※磁気閉じ込め方式(トカマク型)、国際熱核融合実験炉ITER
日米欧の国際プロジェクト、2020年10月に真空容器の溶接工事開始。2025年に初プラズマ予定。
※磁気閉じ込め方式、JET
2024年2月8日のプレスリリースで、JET実験炉で69メガジュールという核融合反応による発熱量の世界記録を更新したと発表されました。1ジュールは0.24カロリーですから、69メガジュールは、16560キロカロリーということになります。これは1トンの水を約16度加熱するエネルギーです。
※磁気閉じ込め方式、JT60SA
国立量子科学技術研究開発機構の実験炉。前世代JT60が1996年に臨界プラズマ条件を達成し、エネルギー増倍率(核融合エネルギー ÷ プラズマ加熱エネルギー)QDT換算値1.25を達成。
Q14:JT-60の実験報告で、QDDとかQDTとかありますが何ですか。Q値と関係ありそうですが。
A14:QDDもQDTもQ値のことです。Q値=(核融合反応で発生したエネルギー)/(プラズマを加熱するのに費やしたエネルギー)ですが、QDDは重水素同士のDD核融合反応で発生したエネルギー、QDTは重水素と三重水素のDT核融合反応で発生したエネルギーを用いて評価したQ値であることを表しています。
JT-60において重水素を用いた実験で得たQDDの最高値は0.0057です。JT-60では、燃料の水素としてトリチウムを使わないので、実験的にはQDTの値はないのですが、燃料の重水素の半分がトリチウムに置き換わったと仮定して、実験で得られたプラズマ温度と密度の下で、DT核融合反応がどの程度起って発生するエネルギーがどれくらいかを計算で評価することができます。JT-60において、このようにして評価した(等価的な)QDTの最高値は、1.25です。
これは二重水素(陽子1個と中性子1個)プラズマを加熱したDD反応による発熱量を、二重水素×三重水素(陽子1個と中性子2個)のDT反応に換算した数値なので本当にエネルギー増倍率1.25を達成したわけではありません。JT60SAは組み立て完成後の試験運転中2021年3月に超伝導コイル接続部損傷が発生し、改修中でしたが2022年12月に全ての改修が終了し、2023年1月から真空排気運転と超電導コイル冷却運転が開始されました。
※慣性閉じ込め方式、米国ローレンスリバモア研究所の国立点火施設
2014年2月、DT核融合により発生したエネルギーが燃料に吸収されたエネルギーを上回る「自己加熱」を達成した。
2022年12月、192本のレーザーを燃料に照射し、投入エネルギーを上回る発生エネルギーを確認し、「真の核融合点火」を達成した。2.05 メガジュール (MJ) のエネルギーを供給することで核融合のしきい値を超え、3.15 MJ の核融合エネルギー出力が得られたと報告されました。Q値は3.15÷2.05=1.53倍です。2.05MJのレーザー光を発生させるのに必要なエネルギーは不明ですし、発生したエネルギーを取り出す時の効率も考慮に入れますと実用化は程遠い状態ですが、局所的にQ値で1倍を現実に超えていることは大きな前進と言えます。
※衝突ビーム方式、TAE technologies
民間企業による実用化の試みです。ホウ素B11に、水素の原子核(陽子p)を加速器で加速させてぶつけてヘリウムHeを3個合成する方式。加速器駆動未臨界炉(核分裂発電)の核融合版です。2021年4月に5000万℃以上の安定したプラズマ温度を達成し、2030年の商用核融合炉実現に大きく前進していると主張されています。
2023年2月には、岐阜県土岐市の核融合科学研究所のLHDで軽水素を時速1500万kmの速さでホウ素11に衝突させてpB11反応が起きたことが報告されました。上記の通り、この反応では中性子が発生しないので融合炉の放射化が起きず、クリーンな原子炉にできます。また、pB11反応では発生した熱でタービンを回すのではなく、発生したヘリウムイオンから電磁誘導により直接電気を取り出すMHD発電をすることができます。コイルの中で磁石を動かして発電するのと同じです。
※ローソン条件(ローソン基準)
英国の物理学者ジョン・D・ローソンが提出した核融合の自己点火条件で、正味電力=効率×(核融合-放射損失-伝導損失)がプラスになることを指します。点火条件は、「中心温度」「持続時間」「イオン密度」の三重積でも試算されています。
原型炉JA DEMO
日本では量子科学技術研究開発機構が中心となって、2015年6月に、発電用核融合炉の原型炉の設計・施工を目指す「原型炉設計合同特別チーム」が結成され、数十万キロワットの安定した発電を行える核融合原型炉の概念設計が進行しています。
商用核融合炉の実用化が10年以内に迫っていると「主張されている」状況は、20世紀には考えられなかった驚くべき状態です。商用核融合炉として計画されていますが、電気代は限りなくゼロに近づいて行き、最終的には儲からなくなってしまいます。
高速道路の無償化みたいに、高速道路建設費が償還し終わった後には高速道路の通行料を無料にできるのと同じように、将来的には、核融合炉の建設費を償還して電気代を無料にできるかもしれません。
生産性革命の一側面として、エネルギー価格の低下が進行しているのです。エネルギー価格がゼロになり、そのエネルギーで、人工ニューロン(人工知能)と人工筋肉(モーター)が駆動された場合に、我々の生活がどうなるか、あらかじめ考えておく必要があるでしょう。その時代が来たら、収入は不要になり、雇用契約は我々に生きがいを与えてはくれないでしょう。収入を前提としないような生きがいの再定義が必要となるのです。核融合エネルギーの開発状況がどうなっているか、常に勉強し、知識を更新していく必要があります。
※参考記事
常温核融合
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