銃病原菌鉄(上)

 ジャレド・ダイアモンド、銃・病原菌・鉄(上巻)

勿論大ベストセラーだとは存じておりましたが読むチャンスを失っており、20年後に初めて読んだわけです。それでビックリ仰天してしまったというわけです。管理人の読解を示します。

プロローグ

25年前筆者は生物学者として鳥類の進化を研究するためにニューギニアの海岸を歩いていた時、ニューギニア人の聡明な政治家ヤリと知り合い会話した。その時ヤリから「白人は色んなものを発達させたが、私たちニューギニア人は発達させなかったのは何故だろうか」質問された。それから25年間の幅広い研究により「歴史は、異なる人びとによって異なる経路をたどったが、それは、人びとのおかれた環境の差異によるものであって、人びとの生物学的な差異によるものではない。」と結論したので、それをこれから紹介したい。

1章、一万三〇〇〇年前のスタートライン

地質学で明かされた最終氷河期の終了時期である紀元前1万1千年前には、人類は植物の栽培化も動物の家畜化も成し遂げていなかった。5万年前の遺跡から、形状の揃った石器や、ダチョウの卵の殻でつくったビーズ状の装身具などの加工品が出土し始めた。筆者はこれを「大躍進」と呼んでいる。この時期に、人類の喉頭が発話可能な形状に進化し、言語能力を獲得したと考えられる。

2章、平和の民と戦う民の分かれ道

1835年11月19日、ニュージーランド北島のマオリ族が、東に800キロ離れたチャタム諸島のモリオリ族を襲撃し、虐殺の末征服した。両部族はわずか千年前に分かれた同じポリネシア人だった。マオリ族は農耕により作物を貯蔵し人口を増加させ階級社会を形成し兵士も養ったが、モリオリ族は狩猟採集生活に適応し非好戦的な小数部族を形成していた。これは環境が人間社会に与える影響についての壮大な自然の実験と見ることができる。

3章、スペイン人とインカ帝国の激突

1532年11月16日、ペルーの高地カハマルカで、インカ皇帝アタワルパはわずか166名のピサロ一行に捕獲され、数千名のインディオ兵も虐殺されてしまった。アステカ帝国やインカ帝国がスペイン人に征服されてしまったのは、銃と病原菌(天然痘)と鉄の武器、それに文字を活用した情報の集積によるところが大きかった。

4章、食料生産と征服戦争

農耕と牧畜により、1エーカーあたりの算出カロリーを高めることができ、農耕民は狩猟採集民の10倍から100倍の人口を養うことができる。食料の貯蔵蓄積は、定住型社会において、官僚や世襲制の王や、刀剣や銃器などの製造職人や、職業軍人を産み出した。家畜と生活することにより、農耕牧畜民は、動物に感染した病原菌の突然変異種に感染し、その免疫を獲得することができた。これは遠征して先住民を征服するときに決定的な役割を果たした。

5章、持てるものと持たざるものの歴史

食料生産量には地域差が存在した。食料生産の開始時期にも地域差がある。これを測定するために炭素14測定法が使われる。これは生物が死ぬと大気中の炭素14を取り込む活動を停止し、放射性炭素14が一定割合で窒素14に変化していくことを利用して、生物の活動時期を測定するものである。遺伝子解析も併用され、飼育栽培動植物がどのように分岐したか測定される。

6章、農耕を始めた人と始めなかった人

考古学や人類学によれば、狩猟採集民の方が農耕民よりも栄養状態が良く身体サイズも大きく、労働時間も短かったようだ。狩猟採集と農耕は二者択一ではなく、定住する狩猟採集民も居れば、移動する農耕民も居た。近隣で農耕が始まっても狩猟採集を続けた部族もあるし、一旦始めた農耕を放棄して狩猟採集生活に戻り、再度農耕に復帰した事例もある。しかし全般に、次の理由で農耕へ移行した。狩猟動物の絶滅、気候変動による栽培可能種の出現、加工貯蔵技術の発達、人口密度の増加、農耕民による狩猟採集民の征服である。

7章、毒のないアーモンドのつくりかた

人類は多数の野生種から特定の栽培種を選び出し、品種改良してきた。苦味と毒を持つ野生種のアーモンドも、突然変異で苦味と毒の無い実のなる木があり、それを選別して何世代も栽培することにより栽培種になった。肉厚のカボチャや、油分豊富なオリーブなども同様に選別された。食料だけでなく、亜麻や綿など布地の原料となる植物も栽培された。

8章、リンゴのせいか、インディアンのせいか

北アメリカでは野生リンゴが栽培化されなかった。栽培化が始まった時期の地域差は、作物化できる野生種の有無に左右された。メソポタミアの肥沃三日月地帯は、低地から山岳まで複雑な地勢があり多様な野生種が分布したことが農耕の開始に有利な条件であった。飼育に適した大型哺乳類の野生種も分布していた。地域差は、入手可能であった野生動植物の差に基づくものである。

9章、なぜシマウマは家畜にならなかったのか

大型草食哺乳類5種、羊、ヤギ、牛、豚、馬は、メジャーな家畜であるが、どうしても家畜化されなかったシマウマやバッファローなどのような哺乳類もある。野生動物が家畜化できない理由は6つある。餌が難しい場合、成長速度が遅すぎる場合、繁殖が難しい場合、気性が荒い場合、パニックになりやすい神経質な性格、序列性のある集団を形成していない場合である。

10章、大地の広がる方向と住民の運命

南北アメリカ大陸、ユーラシア大陸、アフリカ大陸、この3大陸が南北に広がっているか東西に広がっているかが住民に大きな影響を与えた。農業と牧畜の伝播速度が、東西に広がる大陸の方が、南北に広がる大陸よりも速かったのである。遺伝子解析により、肥沃三日月地帯から東西に栽培種が伝播したことが判明した。気候条件が近いことが伝播速度に影響した。緯度が近くても、砂漠や高原や山脈があれば伝播速度は遅くなった。栽培種の伝播速度は、人々の交流を通じて、技術や発明の伝播速度にも影響した。

11章、家畜がくれた死の贈り物

農耕民が狩猟採集民を駆逐した理由は、食料増産による人口増加と、優れた武器や防具、それに動物由来の病原菌に対する免疫も有利に作用した。病原菌の立場で考えれば、人間は宿主であり、咳などの症状は他の宿主に移動するための策略である。病原菌にさらされながら生き延びた民族は、その病原菌に対する抵抗力を持つ人の割合を高めた。集団感染症は、人口密集地でなければ生き延びることができない。伝染病は農耕と共に人類史に登場したのである。病原菌にとって最高の環境は人口密集した大都市である。動物の感染症は4段階を経て人間だけが罹る感染症になった。動物から稀に人に感染する段階、人間同士で感染するが致死性が強すぎたり人類の対策などにより収束する段階、人間社会で定着しはじめたが人間社会への影響が定まっていない段階、そして人間だけが罹患し時折大流行を繰り返す段階である。これは病原菌が環境の変化に適応し進化して自然淘汰を生き残っていることを意味する。アメリカ大陸先住民の人口減少は銃や剣による犠牲よりも旧大陸から運ばれてきた病原菌によるものがはるかに大きかった。


ふつう歴史というと、〇〇の戦いとか、〇〇の即位とか、歴史的事件などを学ぶのですが、この本は「先史時代」に焦点を当てています。文字や記録が残されていない時代の話なんですね。それを遺跡発掘の考古学や、炭素14年代測定法や、比較言語学や、遺伝子解析などの最新知見を利用して読み解いた衝撃の書なんですね。それでヨーロッパ人が世界を植民地化したのは「単なる偶然だった」ということを提示してくれちゃってるわけです。同じように、これからの人類の変化、シンギュラリティ革命も「単なる偶然」で動いていくことが予想されます。

世界史というのは一種の宗教なんですね。宗教史観というやつです。だからヨーロッパ人が習う世界史と、アジア人が習う世界史は違うものになっているわけです。でも、考古学や遺伝子解析などによって示される歴史は、事実なんですね。そこから得られる教訓は重要です。

なんでこの本を20年間読まなかったのかと言えば、毎日の生活が忙しかったからですね。ビルゲイツなんかは仕事を引退して、毎日こういう本を読んでいるのでしょう。それで、人類が進むべき道筋について定期的に驚くべき知見を提示してくれちゃったりしているわけです。世界中の富豪とか知識人はそういう勉強をしているわけですね。彼らに後れを取らないためには一般庶民もこういう本を読んで対抗していかねばなりません。

20年以上前に義務教育を終えた大人のほとんどはこの「世界史」を知らないのです。いや、21世紀の子供たちだって、歴史の先生がちょっと変わり者で、教科書以外のことを教えてやろうという意欲のある先生でなければ、ジャレド・ダイヤモンドの歴史観や、ユヴァル・ノア・ハラリの歴史観を教えてくれることはないでしょう。教科書には載っていませんが、これらの歴史観は重要です。

※参考記事

銃病原菌鉄(下)

サピエンス全史、上巻


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