吉田信夫、光の場、電子の海~量子場理論への道
シンギュラリティを乗り越えるためには、量子力学の知識が必要です。動き始めた量子コンピューターが量子力学(シュレーディンガー方程式)に基づいて動作しているからです。そして、量子コンピューターの計算能力に関する知識が、量子機械学習や暗号通貨の暗号強度=絶対価値に対する正しい認識に繋がるからです。AIと分散金融は、確実に人類社会を変えつつあります。量子力学は世界を動かしています。
勿論すべての日本人が東京大学理学部物理学科を卒業できるわけではありませんので、量子力学の計算を自力でできるような技能を身に付けることは困難ですが、だからといって諦めて何もしないのはダメです。
偉大な投資家ウォーレン・バフェットの名言に“Risk comes from not knowing what you’re doing”、分からないものに投資するところからリスクは生じる、「わからないものには投資するな」というものがあります。これは別にバフェットに限らず、普通の人でも「分からないものには投資しにくいなあ」という自然な感覚を持つのであり、暗号資産や量子コンピュータやAI機械学習について、正しい認識を持てなければ、これらのものに投資(自分の人生の進む方向性を変える)ことはできないものです。バフェットの名言は、逆に言えば、「量子力学を勉強して暗号資産に投資しろ」と読み替えることもできます。
そんなわけで、当サイトでは全てのシンギュラリティ関心者に、量子力学の勉強を推奨していますが、まず第一歩として、「物語調の量子力学本」を読むことを推奨致します。物語調の科学史の本です。誰がどんな性格でどんな体形で、誰と誰が会って、誰と誰がケンカして、あの人が何を考えて、どのような思考経路でこのような結論を出したのか、それを受けて、この人がこんなことを考えた、というような、物語調の量子力学を読むことが有益なのです。
この本を読んで著者の吉田伸夫さんがどうしてこの本を書こうと思ったのか分かりました。それは世間一般の量子場理論への理解が低すぎて勿体ないので美しい量子場理論の世界観をもっと啓蒙したい、という動機です。勿論、量子場理論の美しさを真に認識するには、量子場理論の数式を理解する必要があるのでしょうが、数式なしでもどうしても雰囲気を伝えたい、という熱意が感じられました。
はい、読んで、何となく伝わりましたよ。
それは世界観の転換だったのです。
空間の中に原子がある、ということではなく、量子場の揺らぎ(振動)により原子も含めたあらゆる粒子が生起消滅を繰り返している、ということなのです。その揺らぎは、対称性のやぶれからきている、というのです!
我々の知っている3次元空間よりも本当は世界はもっとずっと多次元で構成されており、3次元空間は、その多次元世界から析出した瞬間的な結晶みたいなものであり、我々はそれを見ているにすぎない、いう世界観です。
「まず空虚な空間が存在し、その中に量子場がある」というのではなく、「量子場がある」と言えば空間的な広がりも内包されているのです。空間ー時間ー物質ー力が、量子場に集約されてしまうという世界観が出現したのです。しかも、それは今までの自然科学とは異なり、実験で確かめることが可能な事象ではありません。どこまで行っても検証不能な説明なのです。しかし、それがあると考えるとあらゆる物理現象を矛盾なく説明できるし、そう考える他ないのではないか、と思わせる説得力を持った理論です。
まあ、天動説と地動説みたいな、これはコペルニクス的な世界観の転回だとは思いますが、それでも、なぜ原子は存在するのか、なぜゲージ対称性のやぶれを生じたのか、というような根源的な問いは残るのであり、宗教的な神話の必要性はいささかも減じてはいませんね。
その他、管理人が重要だと思ったポイントを列挙しておきます。
・鉄鋼製品の品質や生産効率を上げるために溶鉱炉の温度を測定する黒体放射の研究が進み、ウィルヘルム・ウィーンが黒体放射観測値に近似するウィーン分布を発見した。
・プランクは黒体放射に最小エネルギー量が存在することを発見し、放射エネルギーはこの整数倍になることを量子仮説として提唱した。
・アインシュタインは光の電磁波にも最小単位が存在することを光量子仮説として提唱した。
・ニールス・ボーアは、電子が電磁波を放出してエネルギーをどんどん失っても電子が原子核に落ち込んでしまわないように「電子の角運動量はh/2piの整数倍になる」という量子条件を提出し、量子力学の扉を開いた。
・量子条件の背後に波動性があることを最初に提唱したのは、ド・ブロイの博士論文である物質波の論文だった。電子が波動であれば、とびとびの円軌道だけが安定することが説明できた。電子軌道が定まるのは定在波が安定しているのと同じと考えることができる。
・シュレーディンガーは物質波を記述する波動方程式を提出した。
・ハイゼンベルグもボーアの量子条件を記述する行列力学を完成させたが、それは後日、シュレーディンガー方程式と数学的に同義であることが証明された。
・ディラックは、「光の放出と吸収の量子論」という論文で、場の相互作用に量子力学を適用する微調整=摂動論を導入した。これは粒子だけでなく、世界全体を量子力学で記述しようとする試みの第一歩であった。
・ヨルダン・パウリ・ハイゼンベルグは、量子電磁気学を完成させ、量子場の理論を示した。
・量子電磁気学の計算を詳細まで行おうとすると至るところに無限大のエネルギーが出現し、物理学者達を悩ませた。これを、特定の粒子ペアに押し付けて解決してしまう「くりこみ理論」を、朝永=シュウィンガー=ファインマンが考案し完成させ、量子電磁気学を完成の域に高めた。
・湯川秀樹は、原子核内部の核力についてのハイゼンベルグのアイデアを発展させて、中間子という素粒子の存在を予言し、それが実際に観測された。
・ゲージ場の対称性がやぶれてゲージ粒子が出現し、相互作用して他の粒子も生成されたというヤン=ミルズ理論で、自然界のすべてを記述することができるようになった。しかし、重力だけは、この理論でも記述できていない。
人類は、どんどん物質を細かく見ていくことによって世界の成り立ちを知ることができるのではないかと考えて、分子、原子、原子核と、細分化して観察することを繰り返し、世界が単純な部品の組み合わせで出来ているということを実証しようとしてきたが、それは素粒子論と、場の理論という複雑怪奇なパンドラの箱を開くことになってしまったと著者は述べています。宇宙線観測や、巨大加速器を使って、その真理に近づこうとする試みが続いています。巨大加速器などのニュースにも注目しつつ、量子コンピューターの進展にも常に注意を払う態度が必要とされています。
※参考書籍
山本義隆、原子・原子核・原子力――わたしが講義で伝えたかったこと
片山泰久、量子力学の世界
山本義隆、ボーアとアインシュタインに量子を読む
※参考記事
コメントを残す