シンギュラリティを乗り越えるために、電気の知識が必要です。コンピューターの中で何が起こっているのか、理解する必要があるでしょう。勿論、電気がデジタルデータとしてスイッチングされ、流れているのです。人類が電気を発見したのは、最初は雷、静電気でしたが、やがて、真空ポンプが発明され、真空管が発明されました。
2極管についてはこちらをご覧下さい。
3極管についてはこちらをご覧下さい。
2極管も3極管も電気を自由自在に操ることができる魔法の杖のようなもので、人類は様々な発明品を一挙に得ることができました。電話、レコード、無線通信、ラジオ、テレビなどです。コンピューターだって、真空管で造ることができました。別稿で説明しますが、コンピューター(チューリングマシン)は、電気が無くても、ゼンマイとかバネとかの機械式でも造ることができますが、電子を使うことにより、計算速度が指数関数的に増加できたのです。人類は真空管によって「電子計算機」を手にすることができたのです。
真空管は余りにも便利であり、人類はどんどん真空管を改良していきました。しかし、どうしてもフィラメントを発熱させて電子を放出させる仕組みであるために、フィラメントが蒸発して切れてしまう「フィラメント切れ」を避けることはできませんでした。白熱電球と同じで数千時間の寿命を伸ばすことが困難だったのです。そこで、フィラメント切れの無い、「固体増幅素子」を世界中の科学者が模索していたのです。
固体増幅素子=トランジスタは、「固体整流器」から発展して発明されることになりました。固体整流器は、最初は鉱物整流器ダイオードとして発見発明されました。鉱物に金属を接触させると電気が一方向にしか流れなくなることが発見されましたが、なぜそうなるのか研究観察が積み重ねられました。
その結果、電気が流れる「自由電子」の濃度を調節することができる物質=半導体が発見されたのです。
そしていよいよpn接合です。
(1)p型半導体とn型半導体を近づけて接触=接合させますと、p型の自由正孔と、n型の自由電子が結合して、結晶格子の中で安定=固定化されます。自由電子はシリコン結晶にドーピングされたP(リン)原子に由来するものですから、本来はリンの原子核(P+イオン)の近くに存在しているもので、結晶内を移動できるとしても、あまり遠くまで移動することはできません。n型半導体の自由電子は、「共有結合から解放されている自由電子の運動エネルギー」と「P+イオンから電子が電気的に引き寄せられる力=クーロン力」が均衡した距離よりPN接合面から離れていると、p型半導体の自由正孔と結合することができません。そのため、PN接合からの距離が一定範囲の自由電子と自由正孔だけが結合できることになります。
(2)PN接合の接合面に近い場所では、自由電子と自由正孔がどんどん結合して結晶内で固定化されます。この場所では自由電子と自由正孔が消滅するので、電気が流れにくくなりますね。このように電気を運ぶキャリアが消滅している場所を「空乏層 depletion layer 」と言います。シリコン単結晶では、約0.6Vの空乏層ができることになります。全ての半導体素子は空乏層を制御することにより電気の動きを制御する仕組みになっています。
(3)pn接合の様子は「バンド図」によって説明することができます。バンド図(バンド構造)というのは、結晶内の電子のエネルギーレベルを示す図面です。電子は粒子でもあり、波動としての性質も持ちます(Davisson–Germerの実験、菊池正士の実験)。波動であるために、原子核の周りで特定の軌道に存在することにより安定することができます。そのため、電子が取り得るエネルギーのレベルは「飛び飛びの帯=バンド」の形式を取ります。一番外側の軌道に存在する電子は化学反応に使われイオン価数の根拠となるので価電子と呼ばれます。
価電子帯というのは、結晶内の最外殻電子=価電子が持つ電子のエネルギーレベルです。フェルミ準位というのは、当該原子を1個だけ取り出した時の絶対零度における一番外側の電子が持つエネルギーレベルです。伝導帯というのは、結晶内で電子が隣の原子に移動できるエネルギーレベルです。シリコン単結晶において、シリコン原子の一番外側の価電子は共有結合されて、価電子帯のレベルに収まっていますが、本来はフェルミ準位のエネルギーを持っています。しかし、そのレベルでも伝導帯のレベルに達していませんので、電子は隣の原子に移動することはできず、電気を流すことができません。結晶内で価電子帯にある電子を伝導帯に持ち上げるためには、「熱励起」「光励起」「電場励起」「磁場励起」などで外部からエネルギーを与える必要がありますが、あらかじめリン原子=Pなどの不純物を入れておけば、シリコン結晶内で余ったリン原子の電子は、伝導帯直下のドナー準位を持つことになり、ほんの少しの励起によって電気を流すことができるようになります。
さて、このPN接合面に電圧を掛けるとどうなるでしょうか。
順方向バイアス(p型にプラス、n型にマイナスの電圧を加える)
n型半導体に電子を入れていくと、n型の空乏層にもどんどん電子が入って行き、p型の空乏層には正孔がどんどん入っていき、空乏層がどんどん薄くなっていきます。シリコンダイオードの場合0.6V以上の順方向電圧を掛けますと、ついに空乏層が消失して電気が流れることになります。ダイオードの中で空乏層を乗り越えるために0.6Vの電圧が必要なので、ダイオードの外部から見ると、ダイオードの中で常に0.6Vの電圧が低下しているように見えます。これを順方向電圧降下Vfと言います。この0.6V分のエネルギーは光になったり(LED)熱になったりしますが、ダイオードの整流作用という観点で言いますと無駄な電圧ということになりますので、なるべくこのVfが低いダイオードが省エネな素子ということになります。
逆方向バイアス(p型にマイナス、n型にプラスの電圧を加える)
n型半導体から電子を引き抜く感じでしょうか。どんどん電子を抜いていきますと、n型の空乏層付近の自由電子もどんどん抜かれ、p型の空乏層付近の正孔もどんどん抜かれていき、空乏層がどんどん広がっていきます。空乏層が広がるのですからますます電気は流れないことになります。それでもどんどん電圧を増やしていきますと、100Vとか200Vとか非常に大きな電圧になりますと、ついに空乏層を飛び越えて電気が流れることになります。この限界の電圧を逆電圧Vr、逆耐圧と言います。逆電圧以上の電圧を掛けて逆方向に電流が流れてしまいますとダイオードが壊れてしまうこともありますので注意が必要です。