窒化アルミ時代

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旭化成が子会社Crystal IS, Inc.製造のAlN窒化アルミ100ミリウエハのサンプル出荷を開始すると発表しました。プレスリリースを読んで驚いたのですが、窒化アルミのバンドギャップは6.0eVに達し、高効率の半導体スイッチ、省エネデバイスの性能を向上できる可能性があるようです。エネルギー革命が進展するということです。まあ、電力効率がアップすると言っても1パーセントあがるかどうか、というところですが、全世界の電力消費の1パーセントが削減できるとしたら凄いことです。世界中の発電所やエアコンや冷蔵庫や電気自動車の電力消費が1パーセント削減できるかもしれないのです。

フェルミ準位

電子の物理性質から、原子核の周りで、決まった距離に決まった個数の電子しか存在できないこと、電子軌道が存在することが、量子力学により明らかにされ、

シュレーディンガー方程式が発明されました。電子は点ではなく、波動のような、雲みたいなものであることが分かりました。

原子核の周りで、最も近い電子軌道から順番に電子を敷き詰めていき、当該原子が持っている電子の数を全て敷き詰めた時、一番外側の電子の存在確率が50パーセントになる電子のエネルギーレベルをフェルミ準位と言います。例えば絶対零度に物質を冷やせば常にそのように電子が配置されます。そのフェルミ準位に電子軌道が存在しない場合は、結晶の中で、電子が隣の原子に移動することができず(電気が流れず)、絶縁体として観測されます。

バンドギャップ

当該結晶の電子が詰まっている最も外側(高エネルギー)の電子軌道と、フェルミ準位の外側で(フェルミ準位よりも高エネルギーで)、かつ、室温で電子が存在しない最も内側の電子軌道の、エネルギーの差を「バンドギャップ」と言います。光でも熱でも電圧でも、何でも良いので、バンドギャップ以上のエネルギーを外部から与えれば、電子が自由電子になり、電気を流すことができます。

バンドギャップ一覧

  • ゲルマニウムGe 0.67eV
  • シリコン単結晶 1.11eV
  • 炭化ケイ素SiC 2.86eV
  • 窒化ガリウムGaN 3.4eV
  • 酸化ガリウムGa2O3 4.5eV
  • ダイヤモンドC 5.5eV
  • 窒化アルミニウムAlN 6.3eV
  • 酸化マグネシウムMgO 7.8eV
  • 二酸化ケイ素SiO2 8.95eV
  • 酸化ベリリウムBeO 10.6eV

バンドギャップがある物質は、バンドギャップ以上の電圧を掛けないと電気が流れませんので高純度で精製すれば絶縁体になります。しかし、シリコンにホウ素BやリンPを混ぜるように、不純物をドーピングすると、そこに自由電子(自由正孔、キャリア)が出現し、電子や正孔(電子の抜けた穴)が自由に動き回り、電子の流れを運ぶことができるようになります。このキャリア層は、プラス正孔のp型と、マイナス電子のn型とありますが、p型とn型を近づけると、n型の電子がp型の正孔に入って「キャリア消失」が起きて、空乏層が出現し、電気を流さなくなります。キャリア層は、他にも外部から電圧を掛けたり、光を当てたり、温度を変えたりして、制御することができます。これをソロバンの石みたいに、スイッチとして使って、コンピューターは計算をしています。

ワイドバンドギャップ半導体は、空乏層の絶縁能力が高いため、スイッチとしての性能が高く、スイッチング時に熱として無駄になってしまう電力が少なくて済みます。しかし、キャリアをドーピングすることが難しく、実用化が困難でした。窒化アルミの場合は、マグネシウムやシリコンをドーピングして、p型とn型を造るようです。

世界初のトランジスタはゲルマニウムでしたが、次にシリコンになり、電力用途では、SiCやGaNも実用化されています。スマホ充電器やエアコンなどで採用例が増えています。

そこに、窒化アルミが加わるというのです。エネルギー革命が着実に進展していることを意味します。我々が寝ている間に、毎日毎日、少しずつ、半導体素子の置き換えが進展しています。

参考記事

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