データ資本主義


ビクターマイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ著、データ資本主義、NTT出版

金融資本主義が終わり、データ資本主義に交代すると予言している本です。オックスフォード大学の教授とビジネス誌特派員の共著です。ネットワーク化された経済における情報の役割がテーマになっています。管理人の読解を提示しますので各自お読みになって理解を整理して下さい。

第1章「資本主義の再起動」

ネット仮想市場運営会社ebayの20周年記念イベントが2015年9月に開催されたが、同社事業の伸びには陰りが見られた。一方、価格以外の情報を重視するライドシェアのスタートアップBlaBlaCar、オンライン旅行サイトKAYAK、オンライン投資Sigfig、クラウドソーシングUpworkなどは絶好調で伸びている。「市場」というソーシャルイノベーションは、貨幣中心市場から、豊富なデータによって動く「データリッチ市場」へと変わりつつある。データ主導の市場では誤解や誤判断によるバブルも緩和されるだろう。

第2章「人間と調整」

人類による火の利用や車輪の発明、蒸気機関の発明は重要な一歩であったが、物事を調整する人間の能力の方がはるかに大きなものである。人間による調整はコミュニケーション能力によって高められてきた。情報の流通が促進すると、調整力も飛躍的に進歩する。人類が調整能力を高める過程で、集権階層型の「企業」と、分権拡散型の「市場」というふたつのソーシャルイノベーションが大きな役割を果たしてきた。中国政府による小規模起業家保護策は、市場型生産方式を促進し、例えばオートバイではモジュール生産方式の導入により価格を大幅に引き下げ中国生産シェアを世界の半分にまで引き上げた。

第3章「市場と貨幣」

1997年にインド南部マラバール海岸沿いに携帯電話の基地局が設置され、漁師が携帯電話を利用することにより、市場が効率化され、価格変動が緩和された。貨幣による価格は、市場における情報伝達手段、共通言語として長らく利用されてきた。市場と貨幣の組み合わせが人間の活動を調整する優れた手段になると考えられてきた。しかし、人類が大量の情報流通処理能力を獲得した現代において、我々の価格依存症がかえって市場の非効率化を招くことが分かってきた。2008年の金融危機でそのことを学んだのである。

第4章「データリッチ市場」

2017年1月ペンシルバニア州ピッツバーグのカジノで、機械学習により訓練されたカーネギーメロン大学のスーパーコンピューター搭載AI「リブラタス」が、人類のトッププロポーカープレイヤー4人を打ち負かした。これは市場においても豊富な情報を駆使して取引することが主流になることの予兆である。ビッグデータを活用したデータリッチ市場のマッチングプロセスにより取引が促進されている。次世代恋人マッチングサイトはその試金石である。

第5章「企業と統制」

企業は、市場と同様に、人間の活動を調整する仕組みである。メディチ家は複式簿記の効力に気付き莫大な富を蓄積できた。1890年ごろフレデリック・テイラーが提唱した科学的管理法は企業による大量生産を促進させた。アマゾンのジェフベゾスもこの方法を踏襲している。デジタルツールにより企業の統制・意志決定も改善されるが、同時に、市場のマッチング能力も改善され、市場VS企業という構図は市場有利に動くことになる。

第6章「企業の未来」

2016年12月、富国生命は保険請求の査定業務にIBMのWatsonを導入すると発表した。業務処理の3割が削減されるという。同じ頃、ドイツのダイムラーは全従業員の2割を配置転換するリストラ策を発表した。両企業は、市場の攻勢に対抗するため、自己変革を試みているのだ。企業の変革は、コストを削減するオプション1と、分散型意志決定を導入するオプション2がある。ダイムラー同様、音楽配信企業spotifyでは分権型組織を採用し、社内フィードバックとコーチングを重視して運営されている。これは市場を企業に組み込む発想である。この2つの戦略を両方同時に採用することも考えられる。

第7章「資本の凋落」

金融業界を3つの脅威が襲おうとしている。1つは2007年のサブプライムローン破綻で明かとなった、不正確な情報、不完全な情報あるは情報の間違った解釈を招く金融業界の構造的な弱さである。2つめは、2008年以降のグレートリセッションで金利が低下し「利ざや」が低下したことである。そして、3つめが、貨幣の衰退である。データリッチ市場の参加者が豊富なデータを検討材料に加えることにより、貨幣への依存度が低下し、従来価格の支払いを渋るようになるのである。金融資本主義が突然死し、データが貨幣に取って代わり、データ資本主義へ移行するのだ。老後に備えて貯金や投資に励んできた人々は報われないことになる。

第8章「フィードバック効果」

ノバート・ウィーナーが人間機械論で提唱したシステム制御法、サイバネティックスは、フィードバックループを活用してシステムを正しい方向に導く仕組みである。市場の集中化が進むと「規模の効果」「ネットワーク効果」「フィードバック効果」を生じる。インターネット時代にはこれらの効果が促進している。それは意志決定支援システムが一極支配されるディストピアに帰結しうる。市場の集中化を抑制するために、健全な競争を維持するために、筆者は「累進型データ共有命令」を提案する。

第9章「仕事を要素に分割せよ」

高速道路における完全自動運転が実用段階に入っている。これは第二次機械化時代とも言える変化を労働者にもたらす。労働参加率と労働分配率が共に低下し続けると予想される。若者による、新しいスキルのトレーニングは見込み違いとなるリスクをはらんでいる。20世紀中頃のノーベル経済学者ミルトン・フリードマンは「負の所得税」を提唱したが、現代ではユニバーサルベーシックインカムUBIとして議論されている。スーパースター企業の独占利益は、研究開発費への大規模投資という戦略により決算書に正当に反映されていない。これらの企業に「データ納税」を賦課し、社会一般の競争参加・利益享受を促す対策が考えられる。労働参加率の維持という観点では雇用に対する税額控除という政策も考えられるが、月額500ドルなどの部分的UBIによる、雇用のアンバンドリング(分解)も考えられる。仕事を断片化し、人々に自分の好きな仕事を選ばせるのである。

第10章「人間の選択」

データリッチ市場は、貨幣中心の従来型市場に次から次へと打撃を与えている。人間の従業員をほとんど使わないペーパーカンパニーも増えているが、パーソナルスタイリストを提供するスティッチ・フィックスのような人間中心の組織も新たに生まれている。データリッチ市場に合わせて変貌する企業の動きは、「大調整」とか「グレートアジャストメント」と後日呼ばれるだろう。2020年代末には従来型銀行の多くは消え去るだろう。データリッチ市場において、独占の餌食にならないために、人間の選択が益々重要になる。資源不足が克服されて人間は何もしなくて良くなるという楽観論「十分に自動化された贅沢な共産主義」が流行しているが、これも個人の選択にとって脅威となりうる。データリッチ市場により、人と人の結びつきが進み、人間らしさを深めていく必要があるのだ。

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今まで「資本主義の終焉」に関する書物は何冊も読んできましたが、「資本主義が終わった後はどうなるの?」という問題について、「シェアリングエコノミー」の他に明確に提示してくれる本はありませんでした。この本は、その未来に1つの示唆を与える刺激的な書物です。その未来は「データリッチ市場によるデータ資本主義」ということです。「資本主義」じゃないですよ、「データ資本主義」ですよ。はい、全然別物です。ユヴァル・ノア・ハラリさんが「ホモデウス」で述べた「データ至上主義」「データ教」と似たものと言えます。

サイトで何かの画面が表示されたときに、「ああ、これがデータリッチね!」と言えれば合格です。この本が2700円で買えることは驚きです。たった2700円で未来が分かるのですから!

著者は、真のユートピアが訪れるという「十分に自動化された贅沢な共産主義」は、人間の選択を奪う敵であると断じています。人間の選択が放棄された社会などユートピアじゃないという主張なんですね。人間の選択を維持するために、あらゆる独占支配に対して警戒を怠るなという警鐘です。生産性革命の恩恵を受けることは良いが、人間の選択だけは放棄するなという主張であると理解しました。ちょっと今まで「限界費用ゼロ社会」を美化しすぎていたかなと反省です。そういえば、ユヴァル・ノア・ハラリさんの「ホモデウス」でも、サピエンス衰退後は民主主義が衰退すると予言されていました。

資本・貨幣の凋落を描いた第7章の「老後に備えて貯金や投資に励んできた人々は騙された気分だろう」という記述は、どのように考えれば良いのでしょうか。その騙されることを回避することはできないのでしょうか。資本・貨幣が凋落するので長年の努力が報われないということを書いているのですが、要するに生活するのに資本が要らなくなるということですね。データは必要だけど、資本は要らない。だから資本をせっせと貯め込んだり増やそうとしてきた努力は全て無意味になるという警告なのですね。ほりえもんの「あり金は全部使え」という本はこのことを主張しているのでしょうか。ここから先は、各自が自分の頭で考え抜くことが必要でしょう。

wikipedia, data capitalism

※参考書籍

堀江貴文、あり金は全部使え 貯めるバカほど貧しくなる

※参考記事

ホモ・デウス下巻

 

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