AI世界秩序(後半)

カイフー・リー、AI世界秩序

これは、台湾出身のカーネギーメロン大学のAI研究者で、マイクロソフトリサーチアジア(MRSA)を設立し、グーグルチャイナの初代社長で、ベンチャーキャピタリストでもある李開復(リーカイフー)氏のAI情勢分析と未来への提言書です。MRSAってILSVRC画像認識コンテスト2015で優勝した凄い研究所ですよね。我々日本人は、往々にしてアメリカ経由のシリコンバレーの論調に流されやすいものですが、中国側の知見を得られる貴重な本です。また、実際にディープラーニングを動かしている人の見解なので将来予測についても説得力があります。そして、最後の2章は人生観世界観を論じたもので、それまでのAI分析とは一線を画す内容であり、「2冊の本がひとつになっている」感覚を与えるものでした。後半の4章、管理人の読解を示しますので是非各自読んでみてください。21世紀の必修書籍だと思います。


第6章、ユートピアとディストピアとAI危機の本質

AI実用化の時代が到来して、人間のような知的作業ができる汎用AI(AGI)、シンギュラリティの到来が予想されるようになった。この予想は有識者をユートピア派とディストピア派に二分した。著者は、汎用AIが実現しなくても、現在のAI技術が実用化されるだけで、経済と政治が混乱に陥ると予想する。AI駆動型経済は技術的失業を引き起こし、世界経済の格差を拡大させるだろう。楽観派は、ディストピア派の懸念を「ラッダイトの誤謬」で杞憂であると言うが、19世紀の産業革命と、21世紀のAI革命とでは事情が異なる。AI革命は、瞬時にコピーできるソフトウェアの革命であり、ヴェンチャーキャピタルが発達し、人口大国中国が参加しているので、進展速度が加速している。ディープラーニングは、社会全体の仕組みを変えてしまう汎用技術GPSであると考えられる。技術的失業には、一つ一つのタスクが置き換えられる一対一代替だけでなく、ひとつの産業全体を消滅させるような全面崩壊がある。

高度に知的な作業よりも、乳幼児の単純な認知作業や身体動作の方がAI代替が難しいというモラベックのパラドクスにより、AIによる雇用消滅の発生順序が影響を受ける。ブルーカラーよりもホワイトカラーの方が先に攻撃される可能性がある。AIは、世界経済を二極化し、国内の不平等も拡大させるだろう。AIは21世紀のカースト制度をつくるかもしれない。一時的な失業ではなく、永続的な経済的無価値という事実を突きつけられた時、「自分がやってきたことは無駄だったという圧倒的な無力感」におそわれる懸念がある。

第7章、AIと人間性、癌の教え

著者はAIで世界を変えるという目的のもとに仕事に邁進してきたが、ある日突然悪性リンパ腫の診断を受けて、すべての考え方が転換された。本当の人生の意義にエネルギーを費やそうと決めたのだ。それは、人を愛し、愛される生活を大切にするということだ。人間とAIの共生がどうあるべきかの新しいビジョンを得た。著者は高雄の佛光山寺の星雲大師を訪ね本当の自分になれるただ一つの方法を教わった。「この世界でほかの人々を愛すること以上に偉大で貴重なことはない」と認め生活で実践することである。著者は癌から生還し、残りの人生を人類とAIの共生に捧げる決心をした。

第8章、人間とAIの共生に向けて

AI経済への対応策として、シリコンバレーの経営者達は自分たちの生き残りも企図して3つのプランを提示している。それは3つのR、retrain再教育、reduce短縮、redistribute再分配である。再教育はAI教育も活用して新しい仕事への職業訓練を行う方法であるが、AIの影響力を過少評価していると言わざるを得ない。短縮は、各自の労働時間を短縮してワークシェアし、政府が収入減少の一部を補助する方法であるが、産業全体を消滅させるAIの威力の前には役に立たないだろう。再分配はユニバーサルベーシックインカムUBIと呼ばれる方法であり、起業促進や余暇社会のビジョンを提示する者もいるが、格差を拡大させたAIエリートが自分達の罪悪感を慰めるための免罪符、鎮痛剤に過ぎない。

著者はUBIとは違うビジョンを持っている。著者は技術的失業が作るカースト分断社会には住みたくない。AIエリートが想像を絶する巨万の富を築きながら大量の失業者に最低限の施しをしてなだめるような社会は希望しない。それは、ボランティアが自分の時間とエネルギーを使って、自分の住む地域を少しの愛情で満たす活動をしていることを後押しする社会的投資給付金である。これは、ケアサービス、地域サービス、学習という3つの活動に対する報酬を与えるものである。

第9章、AIの未来を描く

AI革命は、ゼロサムのAI競争と考えるべきではない。世界の英知を結集し、私たち自身が、階層や国境を越えて協働し、AIの未来を描いていこう。機械を機械にし、人間を人間にする未来を選ぼう。機械に使われるのではなく、機械を使おう。そして、もっと大切なのは、互いを愛することだ。


リーカイフーさんのTED講演と wikipedia もご紹介します。

https://en.wikipedia.org/wiki/Kai-Fu_Lee

技術的失業に対する、UBIではない出口戦略、社会的投資給付金Social Investment Stipendの考え方は初めて目にする考え方で驚きました。UBIがAIエリートの免罪符であり鎮痛剤に過ぎないという鋭い批判も初めて読みました。これはAIの未来を考え抜いた人にしか到達できないビジョンだと思いました。

ラッダイトの誤謬、モラベックのパラドクスという重要概念も出てきました。また、技術的失業には、一つ一つのタスクが置き換えられる一対一代替だけでなく、ひとつの産業全体を消滅させるような全面崩壊があるという説明も衝撃的です。知的労働よりも、身体を動かす情動的な労働の方が代替しにくいということなんですね。単純に考えて、小児科看護師や、保育士、小学校教師などは耐性のある職業と言えそうです。

※参考記事

AI世界秩序(前半)

ベーシックインカム

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