狂犬カラニック

アダム・ラシンスキー、WILD RIDE ウーバーを作りあげた狂犬カラニックの成功と失敗の物語

「狂犬」だなんて、失礼な言葉で批判本を書いたのかなと思ったら、読んでみると意外にも著者はウーバーCEOトラビス・カラニックから信頼されて中国出張のプライベートジェットにも同乗して取材したフォーチュン誌のエグゼクティブエディターなんですね。世界を変えるようなイノベーションを引き起こすカラニックに対する「狂犬」という形容詞はむしろ誉め言葉なのかもしれません。

描かれているのは、カラニックがウーバーで成功して、中国事業を売却した「現在」からさかのぼる奮闘の物語です。子供時代にはYMCAのパンケーキ朝ごはんパーティーのチケットを売りさばくのが上手な子供だったと言います。「午後二時とかにヒューズ・スーパーマーケットの前に行って、バカげたインディアンの格好をしてお客さんにパンケーキ朝ごはんのチケットを売るんだ。夜十一時までねばったね。しまいには両親が来て無理やり連れられて帰ったよ。」

カラニックはUCLAでコンピューター学科とビジネス学科を専攻していましたが「学部生コンピューターサイエンス同好会UCSA」に参加し、ゲームをやったり、インターネット上の音楽ファイルを検索して聞いたりしていたと言います。その当時FTPプロトコルでは、パスワードなしにファイルの共有が可能になっていたのですね。カラニックはインテルでインターンシップを受けていたが、仲間が創業したMP3ファイルのリストを提供するスタートアップ「スカウア・ネット社」に参加しました。これはファイル共有ソフトの先駆者で、ナップスターの創業に影響しました。やがて両社ともレコード会社や映画会社から訴えられて破産・廃業してしまします。

https://en.wikipedia.org/wiki/Scour_Inc.

https://en.wikipedia.org/wiki/Napster

その後、カラニックは合法的なファイル共有システムを提供するred swoosh を創業します。2007年4月12日、Red SwooshはAkamai Technologiesによる全株式取引で買収されました。買収額は約1,870万ドルで、カラニックは300万ドルをキャッシュアウトすることに成功しました。彼はサンフランシスコのカストロ地区に家を買い「即興演奏の家jampad」と名付け、起業家達との交流をしてエンジェル投資家兼企業アドバイザーとしての活動を始めました。

https://en.wikipedia.org/wiki/Red_Swoosh

カルガリー大学でソフトウェア工学の修士号を取得したギャレット・キャンプは、ユーザーに興味のあるサイトをツールバーに登録できるソフトを開発しスタンブルアポンを仲間と共同で設立しました。この会社をイーベイに7500万ドルで売却し、イーベイ社員として働き続けていましたが、サンフランシスコのタクシー事情に困り果てていました。

https://en.wikipedia.org/wiki/StumbleUpon

配車センターに電話すると15分で行きますと言われたのに30分たっても掴まらず、愛想も悪かった。あんまり来ないので流しのタクシーを捕まえて乗ったら、今度は配車センターから電話が来て「あんまり来ないからやめにした」と回答したら、今度は配車拒否される始末でした。それで、配車オペレーターの仕事を全部スマホにやらせれば良いというアイデアを思いつき、ubercabというドメインを取得して事業準備を開始したのです。

キャンプはジャミングのネタとして起業家仲間にタクシー配車アプリのアイデアを話し、興味を持ってくれた友人4人にアドバイザーになってもらった。そのうちの一人がカラニックでした。カラニックは、ツイッターに「企業に伴い、位置情報サービス向けの優秀なプロダクトマネージャー兼事業開発者求む」と書き込み、GEで中間管理職をしていた27歳のライアン・グレイブスが応募し、ウーバーキャブの初代CEOに就任しました。グレイブスとカラニックは一緒にベンチャーキャピタルを回りましたが、なかなか出資者を見つけることはできませんでしたが、ファーストラウンドキャピタルから45万ドルの出資を得ることに成功しました。これを機に、カラニックは、キャンプとグレイブスからも株式譲渡を受けCEOに就任することにしたのです。おそらく、キャンプもグレイブスも、キャンプの能力を買っていたので、事業を大きくしてくれるなら是非やってほしいという気持ちだったのでしょう。その後の活躍はご存じの通りです。

カラニックは、サンフランシスコ交通局からタクシー事業免許が無いことを理由とする事業停止命令を受け取ったが、ドメイン名からcabを外しただけで、これを無視して事業拡大に邁進したと言います。

そういえば、アマゾン創業者のジェフベゾスは、エンジニアに対する要求が強すぎて人間離れしているので「火星人」というあだ名がつけられているそうですし、スティーブジョブズも製品開発で一切の妥協を排する態度でエンジニアを困らせていたという逸話が残ります。日本でも、日本電産の永守会長の「1日16時間(余暇と睡眠で合計8時間のみ)、年間365日、元日の午前を除いて働く」という仕事ぶりが伝説になっていますね。とにかく、イノベーションを巻き起こすような人は、常識にとらわれずチャレンジし続けているというわけなんです。リーカイフーさんの「AI世界秩序」には中国のドットコム企業の大競争の激闘が描かれていますが、世界を変えるようなユニコーン起業ではまさに仁義なき戦いが毎日繰り広げられているということになります。

日本にもかつて「モーレツサラリーマン」という言葉がありましたが、今や毒気を抜かれて往時の見る影もありません。日本全体が大人しい人々の集まりになってしまいました。21世紀の子供達は、こういう本を読んで日本と世界の対比を考えてみることも必要でしょう。自分自身がそうなれということではなくて、投資をするならそういうリーダーの会社に投資すべきなんですね。

※参考記事

AI世界秩序(前半)


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