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ギリシャの経済学者で2015年のギリシャ経済危機のさなかに財務大臣に就任したヤニス・バルキファス氏の論考にドキリとさせられましたので、御紹介致します。長期的観点からの経済分析です。
- 新型コロナウイルス感染症の流行がもたらした経済危機は、2008年の経済危機の延長で考えるべきだ。
- 第二次大戦後の固定相場制のブレトンウッズ体制が、ニクソン大統領のドル金兌換停止によるニクソンショックで崩壊した。変動相場制によって経済の金融化が促進された。
- 2008年の金融崩壊後のG20中央銀行の緩和策は、ごく少数の金融家のための社会主義政策とも呼べるものであった。それは金融市場を再生させたが、実体経済は干上がり、格差は拡大した。新自由主義は、少数のための社会主義政策に帰着している。
- 2008年の金融危機は、わたしたちの世代にとって1929年だった。
- 新自由主義は、GAFAのような少数企業の寡占を招き、特定の巨大プラットフォーム企業に富も情報も集中する事態に至り、それはテック封建主義 techno feudalism と呼べるものだ。あなたはサイトにアクセスした瞬間から、売り手であれ買い手であれ、その企業のアルゴリズムから逃れることはできない。
- 2008年以降、資本主義の主なエンジンは、利益から、中央銀行の緩和マネーになってしまった。
- ポスト資本主義の3つの対策は、「ひとり一株一票制」、「ビックテックの無料サービスを廃止し、それをベーシックインカムの財源とすること」、「自分の情報の所有権をプラットフォーム企業に委ねず、自分に移譲すること」である。
- 日本経済を回復させるために、「移民の受け入れ」、「社会的公正ファンドを創設し、大企業の株式1割を入れ、ベーシックインカムの財源とする」対策が考えられる。
大企業の株式の一部を公共財源とする発想は、シューマッハー氏が「スモールイズビューティフル」の最終章で提案した「新しい所有の形態」との類似性があります。
テック封建主義は、デジタル全体主義との類似性もあります。ジョージ・オーウェルがディストピア小説「1984」で警告した未来の全体主義です。
それは、小説の世界のものではなく、現実のものとなりつつあるわけです。大切なことは、それに名前をつけて常に警戒を怠らないことです。
バルファキスさんは「2008年の金融危機は、わたしたちの世代にとって1929年だった」と言っています。
1929年、世界恐慌
1939年、ドイツ軍によるポーランド侵攻
1941年、日本軍による真珠湾攻撃
2008年、リーマンショック
2014年、クリミア併合
2022年、ウクライナ侵攻
なんかちょっと似てて恐ろしいですね。テック封建制は、社会の停滞であり、格差の拡大であり、市民の不満が世界大戦を招くというメカニズムなのかもしれません。
封建制は、土地を囲い込み、君主に諸侯が臣従し、諸侯に農民が納税し、その関係が固定され世襲されるという18世紀までの統治体制です。最も簡単に言えば「封建貴族制」ということになります。
21世紀の新しい封建制でも、プラットフォーマーの寡占化が進行し、格差が固定化し、絶対に覆すことができないデジタル封建制が形成されています。21世紀に囲い込まれるのは「土地」ではなく、「インターネットアクセス、クリック」です。デジタル長者、デジタル貴族が出現しています。
web3.0では、この独占が打破される可能性もあります。
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