グリーンニューディール

ジェレミーリフキン、グローバル・グリーン・ニューディール

この本が緑なのは「グリーン・ニューディール」の本だからなんですね。未来学者ジェレミーリフキンの最新作です。管理人の読解を示します。


イントロダクション

人類は今、化石燃料の燃焼に起因する気候変動により地球上で6度目の大量絶滅に直面している。地球の気温が1度上昇すれば大気が保持できる水分量は7パーセント増加し、台風、豪雪、洪水などの被害が拡大され人類に破滅的影響を与え得る。人々はその重大性に気づきつつあり、大恐慌から脱したニューディール政策のように持続可能性を回復するグリーン・ニューディール政策を提唱する動きが加速している。それは若者主導の運動である。

第1章、要はインフラだ

歴史上における経済のパラダイムシフトは常にインフラの構築により乗り越えられてきた。新たなインフラの構築により、膨大な座礁資産の損失を補って余りある利益を人類は手にしてきた。19世紀の蒸気機関による第一次産業革命、20世紀の内燃機関による第二次産業革命を経て、我々は今、IOTによる第三次産業革命のただなかに居る。限界費用がゼロに近づき、共有型のシェアリングエコノミーに移行しつつある。それはオープンソースのコモンズ経済であり、従来のGDP統計では測定し難いものである。大企業によるグローバリゼーションではなく、分散型のグローカリゼーションが進行している。

第2章、パワートゥーザピープル

2007年、9人のEUの政治活動家はグリーン・ニューディール・グループを結成し、翌年「グリーン・ニューディール、信用危機、気候変動、原油価格高騰の三大危機を解決するための政策集」と題する報告書を発表した。インターネットに接続されたスマートグリッドは、自然エネルギーの分散発電を可能にし、電力の民主化を促進する。国際連合環境計画(UNEP)もこれを採用し、世界各国政府が政策に取り入れている。

第3章、ゼロ炭素社会の暮らし

限界費用ほぼゼロの移動は4つの柱から成り立っている。第1に、充電スタンドが満遍なく設置され、スマートグリッドと接続し充放電できること。第2に、物流ネットワークにセンサーが組み込まれ誰もがその情報にアクセスできること。第3に、物理的な物流システムにインターネット同様の標準コンテナを導入すること。第4に、倉庫業者は共同組合を結成し、保管スペースをシェアリングし、物流を最適化すること。ブルームバーグはEVのコストが補助金なしで内燃機関自動車のコストを下回る「臨界点」は2024年に到来すると予測している。移動の効率化により、人々は1割の昇給に相当する利益を享受できる。不動産、就労、農業、流通、あらゆるものが変わる。

第4章、臨界点

化石燃料文明(カーボンバブル)は急速に崩壊し、莫大な座礁資産を顕在化させつつある。再生可能エネルギーの固定価格買取制度が始まったが、10年も経たないうちに再生可能エネルギー価格が大幅に下落し、既に世界各地で廃止されつつある。創造的破壊の経験則は、挑戦者が3パーセントのシェアを獲得すると既存プレーヤーの退場が始まることを示している。投資家は、挑戦者の成長カーブに最も影響を受ける。非営利シンクタンク「カーボントラッカー」は2028年前後に化石燃料から再生可能エネルギーへの大転換点が到来すると予測した。「自分が穴のなかにいるとわかったら、掘るのをやめろ」という古い格言を実行に移す必要がある。

第5章、巨人を目覚めさせる

世界の金融業界では、投資先の優先順位を再評価する動きが進んでいる。その中でも最大の投資主体である、公的および民間の年金基金が、化石燃料関連産業からの投資撤退と再生可能エネルギーへの再投資を相次いで発表し、実行に移している。これにより、産業の転換が加速している。

第6章、経済改革、新しい社会資本主義

社会的責任投資(SRI)は今や儲かる投資方法となり、劇的に増加している。ベンジャミン・フランクリンの「良い行いをして成功する」という格言が21世紀のグリーン経済のスローガンとなった。インフラ投資資金は、累進課税の強化、国防予算の転換、化石産業への補助金廃止、年金資金、グリーン銀行の設立、などで捻出できる。エネルギーサービス企業(ESCO)のパフォーマンス契約によりグリーン投資が促進している。それは、行政などインフラ保持者に対して、ESCOがグリーンインフラの構築による省エネルギー化を保証し、ESCOの資金によりグリーンインフラを導入し、導入費用の償却まで省エネルギー化によるコスト削減分の85パーセントをESCOが取得するものだ。資本主義を転換させた社会資本主義である。

第7章、市民の力を結集せよ

人類はナラティブ(物語)を共有する種である。新しいグリーンニューディールというナラティブに、「やればできる」というリスクを厭わないアメリカンスピリッツが加わることが必要だ。EUは2050年までにカーボンニュートラルつまり排出ゼロを目指すことを明らかにした。人類はこれまで地質時代の生命の残骸(石炭や石油、天然ガス)を掘り起こす「墓場荒らし」を続けてきたが、その結果として6度目の大量絶滅を招き、自分達自身が「絶滅危惧種」になってしまったのだ。人類は「生物圏意識」へと辿り着く必要がある。


第2章で紹介された報告書はこれです。

https://neweconomics.org/2008/07/green-new-deal

第6章で紹介されたパフォーマンス契約は、例えば水銀灯の街灯をLEDに置き換えるような契約が考えられます。ESCO業者はLEDに置き換えすることにより街灯電気代が削減されることを保証し、インフラを保持する行政が工事をすることを許可し、工事費償却まで電気代削減分の大半をESCOに支払うことを約束するのです。それにより、行政は一切の追加支出無く新しい省エネインフラを取得できるというわけです。

第7章で紹介されている人類のナラティブ(物語)の変化は興味深いものです。

・狩猟採集民の神話的意識

・農耕民の神学的意識

・第一次産業革命のイデオロギー的意識

・第二次産業革命の心理的意識

・第三次産業革命の生物圏意識

人類はナラティブを共有する種であると言います。生れてから大人になるまで教育され、社会の中核を担い亡くなるまで、ナラティブを形成し続けるのですね。それは、何世代にもわたって少しずつアップデートされていくわけです。それが、化石産業時代の終焉に伴って大転換を迎えているというのがこの本の主張です。我々人類は他の全ての生物種と共に地球という共通の生物圏に存在しており運命共同体ですよというわけです。なんとも壮大な世界観ですが、地球規模の危機に見舞われている現在の状況を改善するには必要な意識であるとリフキンさんは言っているのです。

リフキンさんは、「やればできる」という姿勢はアメリカの文化的DNAに書き込まれているが、それを解き放ち開花させるのは「アメリカンスピリッツ」だ、と述べています。これが今までの歴史も作ってきたし、これからのグリーンニューディール革命においても必要だと述べておられます。シリコンバレーの起業家精神のようなものがグリーン革命でも役立つというのです。日本人も見習いたいですね!

第7章に、グリーンニューディールの鍵を握る23の方策が紹介されていますが、それについては別の記事でご紹介いたします。

ジェレミーリフキンさんの本は「限界費用ゼロ」の方が資本主義の歴史から未来に向けての全体的な方向性が分かるのでお勧めです。「限界費用ゼロ」を読んでから「グローバル・グリーン・ニューディール」を読むことをお勧め致します。

※参考記事


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