ビクターマイヤー=ショーンベルガー、トーマス・ランジ著、データ資本主義、NTT出版
大調整=great adjustment は、オックスフォード大学教授ビクターマイヤー=ショーンベルガーとビジネス誌特派員トーマス・ランジの共著「データ資本主義」最終章である第10章に出てくる社会変革です。著者は、現在の資本主義からデータリッチ市場が主となるデータ資本主義社会に移行していく変革の時代を、数十年後には「大調整=great adjustmentの時代」であったと回顧されるだろうと予言しています。これはもちろん2008年の世界恐慌、great recession という言葉に対応する言葉です。2008年は経済の一時的な大変化でしたが、2020年代の変革は社会全般に及ぶ不可逆な変化です。「ゲームチェンジ」という言葉がありますが、まさに、ゲームのルールが変わっていく時代に突入すると予言されているのです。従来の常識・ルールが通用しなくなり、新しい常識・ルールに置き換わって行くことを意味しています。
当該10章の読解を提示しますので各自お読みになって整理なさって下さい。
第10章「人間の選択」
データリッチ市場は、貨幣中心の従来型市場に次から次へと打撃を与えている。人間の従業員をほとんど使わないペーパーカンパニーも増えているが、パーソナルスタイリストを提供するスティッチ・フィックスのような人間中心の組織も新たに生まれている。データリッチ市場に合わせて変貌する企業の動きは、「大調整」とか「グレートアジャストメント」と後日呼ばれるだろう。2020年代末には従来型銀行の多くは消え去るだろう。データリッチ市場において、独占の餌食にならないために、人間の選択が益々重要になる。資源不足が克服されて人間は何もしなくて良くなるという楽観論「十分に自動化された贅沢な共産主義」が流行しているが、これも個人の選択にとって脅威となりうる。データリッチ市場により、人と人の結びつきが進み、人間らしさを深めていく必要があるのだ。
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この10章の論調が、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリさんのホモデウスの最終章と非常に似通っていることは示唆的です。テクノロジーが社会を変えていくが、それは人間性を放棄するような方向に進むかも知れないよと警告しているわけです。AI自動化社会のディストピアを警告しているのです。
「2020年代末には従来型銀行の多くは消え去るだろう。」という予言は、10年後に跡形も無く消えるという意味ではありません。名前は残るかも知れませんが、中味が全然違ったもの(例えばペーパーカンパニー)になっているということです。
歴史を学ぶと、今までに何度も、大調整の時代があったことがわかります。今回の2020年代に始まる大調整を読み解くために、過去の大調整の例を列挙しますので、各自考えてみて下さい。
- 農業革命で、狩猟採集社会が終わった。穀物を保存することにより、富の蓄積が始まった。狩猟採集が上手な者よりも、帳簿の計算が得意な者が優位に立つことになった。
- 科学革命で、教会による知識の独占が破綻した。科学研究開発、大航海に投資し、その利益を再投資するサイクルが始まった。忠実な者よりも、好奇心・探究心を持つ者が優位に立つことになった。
- 産業革命で、蒸気機関が発明され、人類が肉体労働から解放された。生産性は所有する土地の広さだけに依存することは無くなった。土地を有する者・腕力を有する者よりも、資本を有する者・知力を有する者が優位に立つことになった。
そして、ビッグデータ革命・データリッチ革命では、貨幣の情報伝達機能が低下し、データそのものの価値が高まるとされているのです。
データリッチ市場では、豊富なデータ量に基づいて取引が行われるため、マッチングの精度が上がり参加者の満足度も高くなります。マッチングが良いので無駄も減り、取引の効率が上がることになります。必然的に価格は下がっていくことになります。
そうなった場合に、現在の社会制度や組織やルールや生活様式がどうなるか、少しずつ考えていく必要があります。今までの努力が無に帰するような事態も起きて来るとされます。しかし、無に帰するというのは言いすぎかもしれません、相対的に地位が低下していくということです。その変化は毎日毎日少しずつ進行しますが、後から見れば瞬間的に変わったように見えるかもしれません。
ひとつの見方として、「貨幣を持つ者、知力を持つ者の没落が始まる」ということが言えます。2019年の時点では考えられない理屈ですが、各自どのような可能性があるか考えてみましょう。
※参考記事
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